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泣き虫魔法少年アーサーと白猫ノーラの奇妙で憂鬱な冒険  作者: ヨシオカセイジュ


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憎しみを超えるもの part4

 怪物は、わが目を疑った。

 自分を引き裂こうとしていたアーサーが

 光に包まれて一瞬姿を消したと思うと、

 再び目の前に現れたのだ。


『何だこれは?いったい何があったのだ?』


 だが、先ほどまでのような怒り狂い、

 狂気めいた雰囲気ではない。


『倒すなら、今だ!』

 怪物は血まみれのボロボロの体で

 最後の力を振り絞ると、一気に

 アーサーを崖っぷちまで追い込んだ。

『あと少し、あと少しで…⁈』

 もう後ほんの数歩で崖下へと浮き落とせる、

 そんな時だった。


 ポトリ…ポトリ…。


 怪物は自分の身体に、水滴が落ちるのを感じた。

 顔を上げると、さきほどまで力任せに

 自分を引き裂こうとしていたアーサーが、

 傷だらけの怪物の体を慈しむように

 抱きしめて泣いている。


 怪物は荒れ狂い、アーサーの体に鋭い牙を突き立てた。

「くあああああ……!」

『……貴様、いったい何のつもりだ!

 泣けばわたしの家族や仲間が、

 戻ってくるとでも言うのか!』


 一気に押し込むが、ピクリとも動かすことができない。

 必死に痛みをこらえアーサーが叫ぶ。


「あなたはいつまで、そうやって戦い続けるつもりなんだ⁉︎」

『いつまでだと?私は、虐げられているロマの仲間たちを救うのだ!

 仲間たちが胸を張って生きることができる未来、

 そのためなら戦う!どれだけ血を流そうともだ!』

「だめだ……!それじゃあ、

 誰も救えない!救えないんだよ!」

『貴様に理解できるのか!

 大切な人を失った悲しみが!この怒りが!』

「ぼくには何も言えない……!

 言えないけど、それじゃあダメなんだよお!」


 そう言うとアーサーは怪物を抱き寄せ、

 自分が青年と目撃した、荒廃し死の世界となった

 未来の風景を怪物の中へと送り込んだ。


『な、なんだこれは……!』

 怪物はその荒涼とした死の世界に驚愕した。

「これが、あなたたちが望む未来、

 人々が憎しみあい、戦った果ての世界だ」

『嘘だ!嘘をつくな‼︎︎︎︎︎こんな…

 こんな馬鹿なことがあってたまるか!』

「ウソじゃない!みんながお互いを信じず、

 恐れ、殺しあってすべてが滅んでしまったんだ!

 あなたの大切な仲間も、何もかもすべて!」


『そんな……それでは私はなんのために…!』

 怪物の体から力が抜け、ぐったりと崩れ落ちる。

『終わりだ……もう、希望も何もない……。

 死んでいった仲間たちに、何と詫びればいいのか。

 私の行った事はすべて無意味だったのか……!』


「そんな事は、ないっ‼︎」

 怪物の両肩をつかんで、アーサーが叫んだ。

「無意味なんかじゃあ、ないっ!

 あなたは弱いもの、虐げられたもののために

 勇気を持って立ち上がったんだ!

 ただ、やり方を間違えてしまっただけなんだ!」


 怪物は、真正面からアーサーをじっと見つめた。

 大粒の涙をとめどなく流しながら語り続ける

 アーサーの瞳の奥に宿る真実の光が、怪物の黒く閉ざされた心の闇を溶かしていった。


『アーサー様』

 怪物が、闇が抜け落ちた瞳でアーサーを見つめる。

『私は、間も無く死ぬ……。

 せめて、何かできる事があれば……』

「それなら、あなたにしかできない事があります」

『私にしか、できないこと……?』


 アーサーは、青年の最後の言葉を思い出していた。

 復活したあの人が行ったこと、それはー


ゆるし、です。

 どうか、あなたを傷つけ、憎んだものを

 ゆるしてやってほしいんです」


 ああ、そうだ。

 私は神に仕えていた身じゃないか。

 数奇な人生だったが、最後にこの少年と

 出会うことができてよかったと、

 怪物、いやフロリン・チョアバは思った。


ゆるします。ありがとう、アーサー様』


 最後にそれだけを言うと、怪物の身体は

 砂のように崩れ、林を渡る風が

 その亡骸をゆっくりと吹き飛ばしていった。


 アーサーは手のひらに残された、ほんの一握りの

 砂をそっとハンカチに包むとポケットにしまい込んだ。

 それからゆっくりと立ち上がるとあたりを見渡し

 転がっていた自分のトランクを見つけた。

 軽くホコリを払うと、しっかりと抱えて

 確かな足取りでウォルズリー城の方へと歩き出した。


 遠くから、甲高いエンジン音が聞こえてきた。

「アーサー君!」

 振り返ると、トライアンフにまたがったヘンリーだ。

「ヘンリーさん……」

「大丈夫か!ボロボロじゃないか?」

「……一体、どうしたんですか?」

「こいつが直ったんで君に見せようと思って

 城へ行ったら、白猫の姉さんにアーサーを

 迎えに行ってくれって頼まれてさ。

 こんな所で何やってたんだい?」


『そうか、ノーラは全部わかってたんだな』

 アーサーはほんのわずかに笑みを浮かべた。


「ああ……いえ、何でもないです」


 ヘンリーはアーサーの顔をじっと見つめた。

「……ぼくの顔、何かついてます?」

「ん?いや、何だかちょっと大人びた気がしてね。

 まあ、いいや。さあ、乗んなよ。

 フローレンスさんが美味い飯を用意してくれてたぜ?」

「ほんとう?楽しみだなあ」

「しっかりつかまってなよ、飛ばすぜ!」

 けたたましい爆音とともにバイクは走り出した。

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