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泣き虫魔法少年アーサーと白猫ノーラの奇妙で憂鬱な冒険  作者: ヨシオカセイジュ


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母の部屋 part1

 会議の後、アーサーは部屋を出ると城の長い廊下をメイドー先ほどアーサーを席へと案内したメイドであるーを連れたレスターに、今夜から宿泊する部屋へと案内されている。

 歩きながらも、終始浮かない顔のアーサーを見て、レスターがさりげなく話しかける。

「先ほどのスピーチと炎の魔法、実にお見事でした。あの様に自信を持って振る舞われれば大丈夫かと。あと、紹介が遅れましたが、こちらのフローレンスが身の回りのお世話をさせていただきます」

「あ、ありがとうございます」

『見事なスピーチに魔法、か。ちょっと嬉しいけど、でも…ぼくの力じゃないんだよなあ』

 アーサーは心の中で呟いた。


「こちらが母上であるアン様がお使いになられていたお部屋です。ご自由にお使いください」

 レスターが案内してくれたのは、城の二階、一番奥まった場所にある部屋だった。ドアを開けると、そこは子供部屋にしてはあまりにも広く、重厚な造りとなっていた。

 室内は天蓋付きの大きなベッドやマホガニー製のデスク、四段式になった大きな本棚に座り心地の良さそうな深紅のソファー、細かいレリーフに飾られた大きな楕円形の鏡が備え付けられた化粧台と、まさにお姫様が住むにふさわしいであろうインテリアで統一されていた。

 だがアーサーを一番驚かせたのは、少女の部屋には似つかわしくない、黄金色に輝く巨大な天体望遠鏡とがっしりとした木製のフレームに取り付けられた大型の地球儀があることだった。


「ええ、この天体望遠鏡、天文台のやつみたいに立派だ!この大きな地球儀も凄いや!…これ、ひょっとしてフランス製じゃないかな?」


 興奮して叫びながら天体望遠鏡を覗き込むアーサーを尻目に、メイドがベッドメイクと運んできたトランクから出した着替えなどを手早く整理している。

 レスターはアーサーを落ち着かせる様に話しかけた。


「アーサー様、日本からの船旅は大丈夫でしたか?不自由はございませんでしたか」

「あ、はい。と言うか…故郷を出るのは初めてなので、何もかも勝手がわからない事ばかりでした」

 興奮していた事を恥じる様に、うつむいて小さな声でしゃべる姿を見てレスターの右の眉が少し上がった。


 なんと、町を出た事すらないこんな小さな少年が、あんな地の果ての小さな島からたった一人、誰ひとり知る者もいないこんな遠くまで…。

レスターは、アーサーが一体どれだけの不安や孤独に苛まされたのかと想像すると、いくらアン様のご子息とはいえ、後継者選びに参加させる必要が本当にあったのだろうか、と思いを巡らせた。

「それは…さぞお疲れでしょう。お食事は済ませてこられたのですか?」

「いや、でも、あの、大丈夫です」

 と言ったところでぐう~っと思いっきりお腹が鳴った。

 あまりの恥ずかしさにアーサーは顔が真っ赤になった。


「夜も更けてまいりましたので、本格的なものはご用意できませんが、お飲み物と軽くつまめるものでもお持ちしましょうか?」

「いえ、朝ごはんまで大丈夫です!」

 ぜんぜん大丈夫じゃ無い、ともう一度催促する様にお腹が鳴りアーサーはさらに赤面する。


「アーサー様」

 レスターが、諭す様に話す。

「子供があまり我慢をするのは宜しい事ではありません。フローレンス」

 フローレンスに小声で何かささやくと、彼女は軽く会釈をし、足早に部屋を出て行った。

 レスターはアーサーの目をじっと見つめると、話し出した。

「アン様はお元気でいらっしゃいますか?」確か妹様はもうすぐ三歳になられるんでしたよね」

「はい。ママは病気のパパの代わりに会社の仕事をしたり、大変ですが元気です。妹の華子も元気です」

「そうですか、それは何よりです。ところで、その望遠鏡と地球儀ですが、アン様がちょうどあなたくらいの頃に誕生日にハワード様におねだりした物です」

「え、そうなんですか?」

 アーサーは驚いた。今まで、母親がそんなものに興味があったことは聞いたこともなかった。


「他のご親族の方々は女だてらに天文学や世界に興味を持つなどいかがなものか、もっとウォルズリー家のレディにふさわしい習い事をさせるべきだと仰られましたが、ご当主はアン様のご希望ならとヨーロッパ中を探して最新式のものをお贈りになられたのです」


 レスターは遠くを見る様な目で話を続ける。

「先ほどのあなたを見ていると、これを受け取った時のアン様の喜びようとハワード様の笑顔を思い出しました。当家が幸せに包まれた最後の時代だったのかもしれません」


 レスターはアーサーと出会ってから初めて微笑んだ。


 フローレンスが再び部屋に戻ってきた。見ると、ティーカップというよりはアメリカ式のマグカップほどのサイズのカップに入ったホットチョコレートと、様々な種類のビスケットを大皿に山盛りにした銀のトレイを運んできている。

「アーサー様。明日も忙しくなると思われますので、早めにお休みください」

「ありがとうございます。おやすみなさい、レスターさん、フローレンスさん」

その時、レスターと共に立ち去ろうとしたフローレンスが、小走りにアーサーの元へ近づいてきた。

「アーサー様!」

「は、はい!」

不意を突かれ、アーサーは裏返った声で返事をした。

小柄で、少しふくよかな体型のフローレンスは、アーサーに微笑みながら頭を下げた。

「先ほどは、ありがとうございます。私たちは皆様にお仕えするのがお仕事ですが、アーサー様のようにお言葉をかけていただけることは滅多にございません。それは立場を考えれば当然といえば当然のことでございますが、それでもお気遣いいただくと嬉しいものでございます」

「ああ、いや、そんな大したことじゃあないですよ」

「いいえ。あのように私たちに気を遣っていただける事は本当に珍しく、アーサー様以外ではお母様のアン様と、もうおひと方はー」


「フローレンス!」

 アーサーに話し続けるフローレンスに、レスターが低く、強めの声をかけた。

「申し訳ございません、おしゃべりが過ぎました。おやすみなさいませ、アーサー様」

 フローレンスが慌ててレスターの後をついて部屋を出て行った。


 バタン。


 アーサーはひとりきりになった。

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