MI6 part3
ヘンリーはMI6のビルを出ると、トライアンフにまたがり、郊外のウォルズリー城を目指した。
『そうか、何でイタリアがでしゃばって来たのかと思ったら、そういう事か。しかしこれでまたややこしくなってきたな』
黒い森の女の秘密がいくらかわかった代わりに、改めて事の重大さを思い知らされた感じだ。
『とりあえず、化け猫のねーさんにも相談して対策を考えないとな』
ロンドン市内の混み合った道を抜け、郊外へと続く道に出ると車影もぐんと減り、ヘンリーはさらにスピードを上げていった。
いくつ目かのカーブを曲がりながら、ヘンリーはロンドン市内から密かに自分を尾行してくる車に気づいていた。
『市内ならともかく、これだけあからさまなのにまだ尾けてくるとはね』
このまま城まで尾いてこさせて、アーサーたちに万が一危害が及ぶことを考えてヘンリーは一計を案じた。
長い上り坂になったカーブに差し掛かった時、スピードを上げて尾行する車を引き離すと、一気にブレーキをかけて後輪をスライドさせると、対向車線側の茂みに突っ込んで姿を隠したのだ。
後続する車からすると、上り坂を登ったところで突然、姿を消した形になって、速度を緩めながらあたりを確認しているのが見て取れる。
『今だ!』
ヘンリーはアクセルをふかし茂みから飛び出すと、車の運転席側にピタリとトライアンフを寄せた。
車には運転席と助手席に二人の男が乗っており、ヘンリーは並走しながら銃を突きつけてどなった。
「左に寄って止まれ!それ以外のことをしたら、このまま撃つ!」
人気のない草むらに車を止めさせると、男たちに両手を上げさせて道端に立たせた。
「さて、おたくらはどこの誰かな?ドイツ人やイタリア人には見えないが、協力しているエージェントかな?」
二人とも沈黙を貫いている。
「まあそうだよな。簡単にしゃべるバカはいないよな」
ドン!ドン!
ヘンリーは男たちの足元に一発ずつ撃ち込むと、感情のない低い声で男たちに告げた。
「次は爪先を撃ち抜く。それでも喋らないなら膝だ。その次は手の甲を狙う。どこまで耐えれるかやってみろ」
ゆっくりと撃鉄を起こした時だ。
「待て、待ってくれ!俺たちはスパイじゃない、あんたの味方だ!」
助手席に座っていた男が悲痛な声をあげた。
「何?」
「これを見てくれればわかる!」
男が震える手で、慌てて上着の内側に手を入れようとするのを、ヘンリーは制止した。
「今度動いたら、耳を吹き飛ばすぞ」
男の上着の内ポケットに手を伸ばし、身分証らしきものを取り出したヘンリーは、眉をひそめた。
「何だって?どういうことだ」
二人は諦めたように話し出した。
「俺たちは軍情報部第五課、MI5ー保安局の人間だよ」
ヘンリーは突きつけた銃を降ろさず聞いた。
「国内の治安維持が仕事の保安局が、一体何で俺をつけまわすんだ」
「俺たちだってやりたくってこんな事やってるわけじゃない。今回の案件に、あんたがこれ以上勝手な行動を取らないか見張るように、政府からウチに回ってきたんだよ」
「一応仲間だからな、俺たちもできるだけ手荒な真似はしたくなかったんだ」
男たちは脂汗を浮かべながら、懸命に説明する。
苛ついたヘンリーは、銃を空に向かって撃つと、男たちに叫んだ。
「あんたたちは何で俺がこんな真似してるか解ってるのか?政府が何と言おうが、ドイツやイタリアがいくら妨害してこようが、このままあの家を放っておいたらどうなるのかー」
そこまで話したところで、運転していた男が話を遮った。
「ちょっと待ってくれ。あんた、何にもわかっちゃいないんだよ」
「何だと?」
「これは、他でもない当のウォルズリー家から調査の中止要請が出ているんだ。この件に関して、国家当局の一切の関与は必要ないってね。」
「ウォルズリー家が?まさか……ルーパス卿か!?」
男たちは顔を見合わせ、しばらくの沈黙の後、驚きの事実を告げた。
「……違う。当主であるハワード侯爵本人からだ」
予想外の答えにヘンリーは言葉をなくした。




