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泣き虫魔法少年アーサーと白猫ノーラの奇妙で憂鬱な冒険  作者: ヨシオカセイジュ


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ホタル狩り part2

「おきなさい、太郎。約束しただろう?ホタル狩りに行くって」

目を開けたアーサーの前には、入院しているはずの父親の姿があった。


「ええ、パパ?なんでこんな所にいるの?」

父親は、入院前と変わらない穏やかな笑顔でアーサーの頭をなぜる。

「なんだい、パパが自分のお家にいたらおかしいのかい?」

「だって、だってここはイギリスで、ママの生まれたお城なのに……」

言いかけたところで、アーサーはそこが自分の部屋であることに気づいた。

「あれ、なんで?だって、さっきまで……」


「さあ、行こうか、太郎」


家を出て、暗い夜道を浴衣を着た大柄な父の後をついてゆきながら、アーサーは一生懸命、父親に話しかけていた。


「ねえパパ、ぼく、なんだか、ずっと長い夢を見てたんだ」

「へえ、どんな夢だい?」

父親は振り返らずに、応える。

「パパが入院して、ママが一生懸命お仕事をしててさあ」

「ふうん」

「ぼく、ずっとさびしくって、でも、頑張ってたんだよ」

「へえ」

「華子のお世話もちゃんとしてたし、ノーラのご飯も忘れずに上げてるよ」


父親の歩く速度は少し早く、アーサーはちょっと早歩きになりながら話を続けている。

「そしたら、イギリスのおじいちゃんとおばあちゃんが大変なことになって」

「ふうん」

「ママはパパのことや華子のことがあるから、ぼくがイギリスに行くことになっちゃったんだよ」

「へえ」

「ぼく、大きな船に乗ってイギリスまで行ったんだよ」


ずんずん、ずんずん。父親の歩く速度は変わらない。

「ぼく、ひとりで、あ、ノーラも一緒に行ったんだけど」

はあ、はあ。

「そしたら、すごいお城で、でも、みんな意地悪で」

はあ、はあ、はあ。

アーサーは少し息を切らしながらついて行く。


「みんな、魔法使いなんだよ、おじいちゃんの親戚って!」

「大きな蛇は出てくるし、ノーラは変身するし、ぼくも、負けないように魔法を使ってやっつけたり、大変だったんだ」

「ぼく、一生懸命頑張ったんだ。

 でも、みんな夢だったんだよね。

 そりゃあそうだよね。

 夢でよかった、パパもいるし。

 また前のようにいつも通り、みんな一緒だよね」


不意に父親の足が止まった。


「ごらん、太郎」

父親の指差す方向を見ると、小さな渓流が流れる谷のようになっていた。

「うわあ、すごい!」

そこでは何百、何千というたくさんのホタルが夜空を舞っていて、幻想的な風景が広がっていた。

「すごいやパパ!こんなの見たことないよ!」

「そうかい」


アーサーは父親の方を振り返るが、薄暗くてあまり表情が読み取れない。

その時ふと、群れから離れた場所に一匹だけ弱々しく光を放つホタルがいることに気づいた。

「あれ……あのホタル、どうしたんだろう」


「あれは、寿命なんだ」

「……え?」

「あのホタルは、もうすぐ死んじゃうんだよ。だから、他のホタルから離れて、ひとりぼっちなんだよ」

「そんなの、可哀想だよ、みんなのところへ連れて行ってあげようよ」

ホタルの方へ歩き出したアーサーの肩を、父親がつかんで止めた。


「……パパ?」

「諦めなさい、太郎」

「あきらめるって、なにを?」

「太郎、諦めるんだ。それしかないんだ」


父親の声が、急に小さくなった気がして、なんだか怖くなって慌ててアーサーは父親の手を握ろうとした。

だがアーサーの手をするりと抜けると、父親の姿は少しずつ遠ざかり、闇に溶け込んでいく。

「パパ、パパ、どこ行くの?」


気がつくと、あれだけ舞っていたホタルの群れが姿を消して。あたりは暗闇に包まれようとしていた。

アーサーは自分の心臓の鼓動が、バクバクと早くなっているのを感じた。

「いやだよ、パパ、どこへ行ったの?どこ、どこなの?」

「ここはどこなの?パパ、パパ?いやだよ、ひとりにしないで!!!パパ!!!」


はっと目がさめると、アーサーはベッドの中にいた。

ウォルズリーの城、母親であるアンの部屋、アンが使っていたベッドの中だ。


すべてが夢だと理解した時、アーサーは枕に顔を埋めて声を殺して、泣き続けた。


その時だ。

アーサーは、室内にアーサーを見守るように小さな光が浮かんでいるのに気がついた。


「あれは、さっきお城の外で見た光……?」


その光は室内をふわふわとさまよった後、扉をスーッとすり抜けて出て行ってしまった。


「あ、待って!」

アーサーはベッドから降りると、日本から持ってきていたガウンを羽織り、光を追って室外へと出て行った。

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