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泣き虫魔法少年アーサーと白猫ノーラの奇妙で憂鬱な冒険  作者: ヨシオカセイジュ


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雨の訪問者

 時は1938年ー昭和十三年ー十月。

 長い歴史の中、世界を動かし君臨してきた大英帝国の威厳と栄光、その最後の時代。


 首都ロンドンの郊外にある、英国有数の貴族の古城を一台の馬車が訪れようとしている。

 季節が夏なら、一面にヒースの美しい花がカーペットの様に覆うであろう

 広い丘陵地を丘の上にそびえる古城を目指し、クラシカルな馬車が進んでいく。


「……なんだか、とんでもないところに来ちゃったみたいだぞ」

 くるり、くる、くる。

 大きめの朱色のベレー帽からはみ出した金色の前髪を指に巻きつけながら、

 馬車の窓から外を見つめ、少年は小さな声で呟いた。


 低く、分厚い雲が地平線の向こうから広がり、辺りはすっかり薄暗くなってきている。

「あ、やっぱりきた。何だよ、もう!」

 ポツ、ポツと降り出した雨はやがて強さを増し、客車内に憂鬱なリズムを刻む。

「×××××××××、××××××××!」

 馬を操る御者が、何か吐き捨てる様に叫んでいるが、はっきりとは聞き取れない。


 窓を伝う雨雫で目的地である丘の上の城がぼんやりとしか捉えることができなくなっていき、雨を嫌い少し速度を上げたせいか馬車の振動が激しくなって、少年はこみ上げる吐気を抑えるので精一杯だった。


「ふううぅ、ふう」

 恨めしそうに外を見つめるまだあどけなさの残るその顔立ちは、金髪に碧眼でありながらどこかアジア的な面影があり、それが表情に儚げで切ない印象を与えている。


 帽子と同じく、少し大きめな朱色のジャケットにフラノ素材のグレイのパンツ、

 足に合わないのか焦げ茶色のローファーをぶらぶらと爪先で遊ばせている。

 目的地の城はすぐそこの様に見えるのに永遠に辿り着かない気がして、あらためてふうっと長めのため息と共に、後悔混じりの言葉を漏らした。


「……なんで来ちゃったんだろう」

 やっとのことで城門にたどり着くと、巨大な噴水を中心にシンメトリーに庭園が広がっている。

 晴天の日ならさぞかし見物だろうが、今の少年にそんな余裕はない。


 カタタ、カタ、カタ。やがて馬車が止まり外側からゆっくりとドアが開かれた。

「遠路はるばる、ようこそお越しくださいました」

 低く、落ち着いた声でぴったりと撫で付けた髪型と綺麗に整えた口ひげが印象的な中年の男性が少年を出迎えた。細身の体躯だが、かなりの長身であるにもかかわらず、威圧的な空気は一切ない。


「私めはこのウォルズリー家にお仕えする執事のレスターでございます。

 滞在中は、私と専属のメイド達が身の回りのお世話をさせていただきます。」

 自己紹介を終えたところで、海を越えてきた長旅にしてはあまりに軽装な少年の姿を見て訊ねる。

「あの……お手廻り以外のお荷物はどちらに?」


「あ、いえ、これがすべてです。」

 少年はさほど大きくもない、古びたトランクを大事そうに抱えながら、はにかんだ様に笑った。

「はじめまして。日本からきました。吉岡・アーサー・太郎です」

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