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第九十九話「謀略」

「それでは、状況報告を始めます」

 場所は、マーベリック艦内。三号機の自動修復システム用メンテナンス・ルーム。オーロラ内部の白兵戦から、明けて翌日。いつもどおり、クリスから口を開いた。

「司令室との通信は、回復しました。ダグラス元帥からの停戦命令以降、各所の戦闘は納まってます。回線を奪ったウイルスについては、すでに消滅しており、解析は困難と思われます」

 集まったチーム・メイトに向かい、肩をすくめる。

「次に被害状況ですが…」

 視線を下方に落とす。船の自動修復システム・キキが、ベッド状に変形している。

「シンさんは当面、絶対安静です。ここまで帰ってきたのは、さすがだけど…、自分の足で立てるのは、まだ先。その間、キキが治療を進めます」

「手間をかける」

 ベッドの上で横になったシンが答える。その横には、ナチアが腰をかける。

「第十三小隊は、どうなりましたの?」

 クリスは残念そうに首を振る。

「隊長のリーガン少佐を含め、主要メンバー全員の死亡が確認されました。何人かは生き残ったようですが、事実上、第十三小隊は壊滅しました」

「わかりましたわ」

 ナチアはシンへと顔を向ける。「第十三小隊への謝辞は、わたくしから送りますわ」

「頼む」

 短い返事のあと、クリスが説明を続ける。

「第十三小隊だけではありません。オーロラに駐在する、ほぼすべての機甲部隊が壊滅しました。三分の一は、シンさん達が。三分の一が、ぼく達に。残る三分の一は、同士討ちです」

「命令に背いた部隊が、他にもいたのですわね?」

「はい。詳細のデータは…、あとで見てください」

「よろしいですわ」

 おそらく、クラーギナ財団と関わりの強い部隊だったのであろう。或いは、シンの出身である、白龍の手の者が混ざっていたのかもしれない。

「ナチアさんとユーキさんは…、体、大丈夫ですよね?」

 ナチアは無言のまま、軽く両手を広げる。

「わたし達はね…。船はどうだった?」

 ちらとシンを見ながら、床に腰を下ろすユーキが尋ねた。

「ぼく達も大丈夫。船も損害は微少です。まあ、入港した時点でボロボロですけど」

 だけど、とクリスは肩をすくめる。

「ガード・レーザーの死角をカバーするために、主砲を発射しました」

「自分が、判断しました」

 ユーキの隣に座る、エレンが言った。

「リン少尉達からのジャミングを合図に、出来るだけ早いタイミングで撃ちました。結果的に、巻き込んでしまった様ですが」

「構わん。助かった」

 シンが答え、ユーキが聞いた。

「それにしても…。わたし達がいたのは、船尾側の通路よ? どうやって攻撃したの?」

 前方に固定された主砲は当然として、ガード・レーザーも船尾側周辺は近すぎて死角になる。敵にまわった機甲小隊も、それを承知で陣を敷いていた筈である。

「主砲を反射させました」

 エレンは答えた。

「反射?」

「はい。船のミラー・シールドを引き剥がし、前方に固定しました」

「それじゃあ…、跳ね返って、船に当たるんじゃないの?」

「ですから、こうして…」

 エレンは自らの両手を重ね、そして、少しだけ隙間を作った。

「一号機を、二号機と三号機から分離して、隙間を作りました」

 ユーキの頬が、ひきつった。

「じゃあ、あれ、ほんとにマーベリックの主砲だったの? すぐ脇を通過したの?」

「はい。接続機関を直しておいて、良かったです」

 冷静なエレン。言葉を失うユーキ。悪態をついたのは、ナチア。

「メイン・レーザーの軸線上で踊っていたとは…。笑えませんわね」

「問題は、そこではありません」

 さらりと、クリスが流した。

「反射したレーザーが、オーロラ内部を直撃しました。無理矢理に撃った低出力、とはいっても、この距離です。シャフト直近を通過し、そのまま逆側の装甲を貫きました」

「エネルギー機関に当たっていたら、どうしたのです?」

「さすがに、そのくらいは計算しました」

 自軍の要塞内部で大口径レーザーを発射しておいて、何が計算だと、ナチアは思った。

「船の前方に設置したミラー・シールドも、瞬時に崩壊。直進した分のレーザーによって、反対側にも穴が開きました」

「結局、オーロラが傾いたな」

 エレンの横、ユーキと逆側に座るボーイが笑った。

「笑い事ではありません」

 ボーイを除く全員が心で思い、エレンが言葉でたしなめた。

「各機関の破壊、装甲の損壊、白兵戦部隊の壊滅…、オーロラはトスポリの拠点です。防衛レベルの低下は、もはや避ける事が出来ません」

 エレンが小さく息を吐いたあとで、ナチアがボーイを睨む。

「主砲ではなく、あなたが戦えばよかったのですわ」

「おれか?」

「ここまで無事に帰ってきましたのに、仲間のレーザーで、このざまですわ」

 ユーキが軽症。ナチアは無傷。間に挟まれていたシンだけが、重傷を負った。運が悪いと悲しむべきか。被害が少なかったと喜ぶべきか。

「日ごろの行いが、わるかったんじゃ…」

「馬鹿ですの? ガード・レーザーで敵を牽制、背後にまとまったところで、主砲を発射。あなたはいったい、何をしてましたの?」

「阿呆か。敵の攻撃受けながら、ミラー・シールド引っぺがすの、どれだけ大変か、分かってないだろ?」

「機甲小隊の包囲網を潜り抜けた、わたくし達の苦労を知るといいですわ」

「なに言ってやがる。戦ったのは、ほとんど第十三小隊だって言うじゃねえか。だいたい、完全武装の連中相手に、一人で拠点防衛なんて、無理に決まってんだろ」

「わたくし達は逃げてきただけだと、聞こえましたわよ?」

「逃げ回ってきたんだろ?」

「なんですって?」

 睨み合う二人の間に、ユーキが割って入る。

「それで…、今回の事件、首謀者の特定は、難航してるのね?」

「はい。まあ、ぼく達から見れば犯人は明らかなんですが…。上層部では意見が分かれているようです」

 クリスが、さえない顔になる。

「わかる気がするわ」

「経緯はどうあれ、ぼく達はお尋ね者です。かつて、ヘブンとグリューンを存亡の危機に追い込み、観察衛星とともに千人以上の技術者を殺害、新型ワープ機関を船ごと奪って帝国に亡命…。帰ってきたと思ったら、今度は最前線の要塞を内部から砲撃。正体不明のウイルスを作成できそうな人間も揃っているし…。ぼく達のことを首謀者と…思わない方がどうかしてるな」

「申し訳ありません。ほとんどの原因は、自分にあります」

「そうなんだけどさ」

 エレンの言葉を受け、クリスが口を尖らす。

「問題は、ヘレン・スタイナーが原因だって、教官だけが亡命を企てたんだって、証明できないってとこにあるんだよね」

 本人はすでに死亡し、残されたのは、巻き込まれたチーム・メイトと、クローンの少女のみ。

「当時の記録は全部消えちゃったし。守護艦隊に送ったデータだって、シンさんの正体とか、ぼくがワープ航法を開発したとか、そこらへんは黒塗りだし…。そうするとなおさら、どうやって帝国から帰ってきたのか、分かんなくなるんだよね…」

 シンは無言。代わりにユーキが口を開く。

「だとすると、やっぱり、ダグラス元帥に会えなかったのは残念ね」

「信じてもらえる可能性、一番高かったからね…」

 溜め息をつく二人に、ナチアが言った。

「あなたの父親は馬鹿ですの? 今回の事件で誰が得をするのか、結果を見れば明らかですわ」

「父さんにも、元帥としての立場があるから…。簡単には認められないよ」

「帝国側の動きは?」

 シンが尋ねた。

「今のところ、後方に下がって、態勢を整えているよ。ほんとはすぐに攻撃したいんだろうけど、マーベリック相手にミサイル撃ちまくったからね。準備には、早くて数日はかかると思う」

 現宙域における船の数は、連邦よりも、帝国が上。

 本来、マーベリックは不可空域を越えて、連邦領に直接ワープ・アウトする予定であったし、帝国もそれを前提として準備をしていた筈。マーベリックのワープがずれて、帝国領側で攻防戦になったのは、誰にとっても予想外だったのである。

「連邦側も、近くの空域から船を集めてるみたいだけど、間に合うかどうか…。いずれにしろ、大きなマイナスだよね…」

 クリスの言葉を、エレンが繋ぐ。

「今回の企みが成功していれば、自分達六人は死亡。それに伴い、マーベリックも当面、稼動不能になっていました」

「失敗しても、これだもんね。ぼく達は守護艦隊から不信を買って、結局、マーベリックは動きがとれない…。いつ頃に仕組んだのか知らないけど、こんなの簡単にはできないよ? そもそも、連邦が後手に回る原因になった和平条約だって、二年前から準備してたみたいだし。なんだか、もう、さすがとしか言い様がないよ…」

 独り言のように、少年は呟いた。

「さすがだよ、銀河帝国、第二代皇帝…。恐ろしい相手だね…」

<次回予告>


 その夜、マーベリックの後部ハッチから、エレンが港に降り立った。


次回マーベリック

第十五章 第百話「暴露3」


「ヘレンは…、教官は、どうして帝国に亡命しようとしたの?」

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