表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
188/243

第九十七話「対包囲網戦」(2)

「ナチアっ」

 重くなる空気を吹き飛ばすように、シンが叫んだ。

「現状を報告しろっ」

 まだだ。まだ、諦めない。

 仲間を護る。護って、連邦に帰る。そう誓った。

「方位0‐9正面にトスポリ平原。その手前に帝国艦隊、総数約八百」

 迷いと絶望を振り切り、ナチアが応える。「中央に、帝国側の攻撃要塞を確認。平均距離、およそ十億っ」

 さらに追い討ちが続く。

「後方にも時空震っ。敵艦隊のワープ・アウトっ…。推定総数、百…。いえ、二百を突破…」

 最低でも、大型艦が一千隻。この広い宇宙で、挟み込まれた。

 運が悪い?

 いや、通常の長距離ワープなら、この位置で間違いない。それは最初から分かっていた。あと一歩が、足りなかった。

「距離は?」

「十億から十五億」

「囲まれた、か…」

 シンが、ナチアが、沈黙する。

 ボーイが、エレンが、ユーキがクリスが、言葉を失う。

 降伏。

 脳裏に、その言葉が浮かぶ。だが。

「やるぞ」

 シンの一言に、全員の顔が引き締まる。

「エレン」

「はいっ」

 一度裏切った、その罪を償う。そう決めた。邪魔はさせない。

「短距離ワープだ。マーカーは同じ、連邦側攻撃要塞。五十分で準備。五十分でワープ・イン」

「通常空間で五十分…。不可能ですね。やってみます」

 帝国艦隊より、通信が届く。

「シン、降伏勧告、来たわよ?」

「無視する。ユーキはエレンをサポート」

「了解っ」

 六人で連邦に帰る。みんな揃って。すべては、それからだ。

「ボーイも、サポートを頼む」

「オーライ」

 ここまで来て諦められるか。こいつらを、今度こそ、護りきる。

「少尉、前方の艦隊より、ミサイル射出を確認。亜光速で接近中。総数は、約八千。…降伏勧告も形だけですわね」

「むこうもやる気だ。ナチアは航空管制。時空震をフィード・バック」

「わかりましたわ」

 他に選択肢など、ありはしない。目の前の道を、ただ進むのみ。

「クリス」

「うん」

 絶対に負けない。帝国になど、負けてやらない。

「連邦に通信を繋ぐぞ。守護艦隊の旗艦。総司令に、直接だ」

「オッケー。そのために、ぼくはこの道に入った」

「守護艦隊は、帝国の向こう側に確認できますわ。だいぶ出てきてますわね」

「好都合だ。俺が各自のバック・アップに入る」

 急ぐぞ。

 白い船体に向けて放たれたミサイルは、この時すでに、一万を越えていた。


 後方の敵艦隊も、次々と通常空間に移行し、ミサイルを発射する。すべてが、リミッターを外された、重質量ミサイル。マーベリックのワープを阻止するための、なりふり構わない飽和攻撃。

 最初のミサイル接触まで、推定で十分弱。遂にクリスが、通信を繋いだ。

 現われたのは、柔和な顔立ちの、壮齢の軍人であった。

「こちらは連邦軍、トスポリ平原守護艦隊総司令、ダグラスだ」

 落ち着いた声に、見る者すべてを包み込むような表情。明るいブラウンの長髪が、その奥の理性的な瞳を僅かに隠している。

「通信を開いた、理由を聞かせてもらおう」

 エルネスト・ダグラス。

 連邦軍三元帥の一人であり、実戦部隊の頂点に立つ男であった。

「こちらの艦名はマーベリック。代表のリン少尉。貴艦隊の、援護を願う」

 相手が誰であろうと、シンは平静を保つ。「通信がオープンなのは恐縮ですが、時間がありません。詳細はデータで送ります。本艦はこれより、帝国領から不可空域を越え、連邦領内にワープ・アウトします。そのための援護を!」

 ダグラスの顔が曇る。

「突然、何の冗談かね?」口調は穏やかに続ける。「つい先日、両国の和平条約が成立したばかりだ。その反対勢力というのであれば…」

 だから、帝国は、これほどの戦力をトスポリに集中できた。

 シンは納得したが、細かく説明している時間はない。元帥との会話よりも、必要な情報の伝達を優先させた。

「マーベリックの計画を、提督なら聞いたことがある筈です。二年前の、セリオス最外周で起こった惨事についても。この船は…、連邦の船! その証拠を、お見せします」

 そして通信に、二人の少女が現われる。

「お久しぶりです、提督。中将ミナヅキの娘、ユーキです」

「わたくしとも一度、晩餐会で、お会いしていますわね」

 中将の息女と、クラーギナの後継者。どちらも、出会ったことを忘れられるような人間ではない。

 表情を固めたダグラスの前に、四人目の人物が現われる。

 自分と同じブラウンの髪。ブルーの瞳。懐かしい顔立ち。なぜ、ここに…。

「クっ、クリスぅっ!」

 少年は、照れ笑いを浮かべていた。

「久しぶりだね、父さん」

 映像にノイズが入る。帝国からの妨害が強まった。

「残念ですが、ここまでのようです」

 シンが言った。

「連邦の人間を守るのが、連邦軍の役割。期待しています」

 そして、通信は切れた。

続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ