第七十八話「晩餐」
「お楽しみの、次回予告です」
楽しみになど、してませんわよ。
でも、聞かないわけには、いかないもんね。
オバール太陽系脱出より明けて翌日。四人は、三号機のリビングに集合していた。
「次のワープが三日後、最後のワープが、さらに三週間くらいあとになりますが…。その間、敵がどう出てくるのか…、正直、ちょっと分かりません」
予告になっていませんわ。
放送事故みたいね。
ベッドに腰掛けた、二人の少女が囁きあう。シンは一人で床に腰を下ろしている。ナチアの左頬には、治療用のパッドが貼ってある。
どうして、座る位置が戻ったんだろう。
思いながら、クリスは立って説明を続ける。
「オバール脱出に際して、マーベリックも相当ダメージを受けましたので、ここ一週間くらいで追っ手がかかると、ちょっと…かなり対応が難しいですけど、さすがにそれは、帝国も準備が整わないと思います」
まあ、当たり前ですわね。
途中にワープも、はさむしね。
「そのあとの攻撃は、いくつかのパターンが想定されます。一つは、これまでどおり、戦力の逐次増強を行う、というパターンです。ただし、マーベリックの推進機関がこれだけ回復すると、簡単には追えないって分かってますから、包囲網を形成するだけでも、防衛艦隊クラスが必要になります。分隊ではなく、帝都防衛の全艦隊です」
…考えたくもないですわね。
戦艦だけでも、数十隻ってこと?
「万全を期すなら、大型艦換算で百隻程度必要になります。これだけの数になると、不可空域からも一定戦力を割く必要がありますが…。そんなことが可能かどうか…」
困難では、ありますわね。
うん…。どうかな。
「もう一つのパターンとしては、マーベリックの二号機か、それに類する特殊な高性能機の投入です。パイロット不在の中、二号機のプロテクトが簡単に解除できるとは思えませんが…。帝国も、ある程度の勝算があったからこそ、教官を…自白治療にかけたと思いますので…」
二号機の投入…。
あるのかな、ほんとに…。
「しかし、やっぱり可能性は低いです。あるとすれば、高性能戦闘艦…。はっきり言えば、皇帝専用機の投入になると思います」
とうとう、陛下のお出ましですわ。
来るの? 皇帝が?
「マーベリックに対抗するとなると、少なくとも、オニキスの搭載が最低条件です。この条件を満たすのは、二号機を除いて皇帝専用機以外にありえません。…かつて、初代皇帝がオニキスを積んだ特殊艇に乗って、連戦し連勝、銀河帝国建国の端緒となりました…が、もう一世紀近くも前の話です。不可空域の防衛体制が整い、両国の戦略も変化しました。ぼく達がいなかった二年間の状況も調べましたが、あまり大きな変化はないようです。現皇帝の即位から現在まで、皇帝専用機が出陣したという記録はありません。ゼロです」
まあ、初代皇帝は戦術家、二代皇帝は戦略家、などと言われますから。
帝国軍の旗艦が、空母じゃなくて戦艦なのも、初代皇帝の影響って言われてるわね。
「実際に皇帝本人が出てくるとは限りません。皇帝代理人は、何人かいますから。…ぼく達にとって、もっともやっかいなのは、三つ目のパターン。大規模艦隊で包囲網を敷かれ、その内側で皇帝専用機との一騎打ちを強いられるケースです。包囲網を作っておきながら、一騎打ちっていうのも変ですけど…」
皇帝専用機に、代理人、大規模艦隊…。
なんか、ずいぶん話が大きくなっちゃったね…。
「もともと、こんな高速艇を追いかけようってことが、無謀なんです。もしぼくが皇帝だったら、それなりの艦隊で追いまわして、少しでも不可空域の厚い所に追い込んで、それでよし、ってします。投入戦力も被害も最小限で済みますし、すでにオニキスは一つ、手に入れてますし。さらに、連邦から五十年以上、残る二つを奪うんですから、悪くない計算です」
順当にいけば、そうなりましたわね。
そう、ね…。
「だけど、残念ながら、帝国の世論が黙っていないでしょう。ホワイト・キャットは何者だったのか。連邦との関係は。量産はありえないのか。再びロマリアに攻め込んでくる可能性は…。いくら帝国政府が情報規制を敷いたところで、苦しい説明が続きます」
マーベリックを捕獲なり撃墜できれば…。
すべての問題が片付く、のよね…。
「帝都でレーザー砲を発射した時点で、覚悟していたことです」
わたくしは、覚悟していませんでしたわ。
…わるかったわよ。
「相当厳しい条件設定になりますが、ぼく達としては、戦闘は放棄、逃げることを前提としてシミュレーション訓練を行い、準備を進めたいと思います…ということで、どうでしょうか?」
それまで黙って聞いていたシンに対して、クリスは聞いた。
二人の少女も、同様にシンを向き、返答を待つ。
「おおまかな方針としては、それでいいとして…。次のワープは、三日後だな?」
「うん。そう」
シンの質問に、クリスは頷く。
「では、それまでの間、休息を取る事にしよう。もし、お前達がいいのなら、だが…」
こういう提案が否定されたことは、今までに一度もなかった。そして、今回も。
続く