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Prologue



 この物語をサイバー・ビーングに捧げる。



 深淵なる宇宙。満天の星。

 彼女は、宇宙空間で見る星が好きであった。視界を覆う無限なる光点。明滅のない直接的な、その輝きが。地上とは異なり、宇宙には大気がない。星々の光を遮るものがない。それ故に、数が違う。輝きが違う。

 ふふっ。

 彼女は笑う。心の中で。

 前方には大型のスクリーンが、彼女の大好きな星々を映し出していた。

 奇麗で、雄大で、純粋な宇宙。

 溜め息すら漏れそうである。何故これほどに惹きつけられるのか、本当のところは彼女自身にも解らなかった。

 好きだということに理由は無い。

 いつか、父が言っていたことを思い出す。

 そうかもしれない。

 彼女は思うが、納得はしていない。すべての事象には理由が有り、原因が在る。その理由や原因が分からないだけなのだ。分からないことを、分からないまま放っておくなど、彼女にはできなかった。好きなことなら、なおさらである。

 昔、彼女を初めて宇宙に連れ出したのは、父であった。母は、地上で帰りを待っていた。戻ってきた娘が宇宙に魅了されたことを、母は心配した。母にとっての星空は、仰いで見上げるものだったのである。そうして母は、今でも宇宙に出ようとしない。

 彼女は、母と違う道を選んだ。保護という名の束縛を抜け出し、宇宙に出る道を選んだ。

 彼女は飢えていた。

 探求を。究明を。その過程を。

 彼女のまわりには多数のカプセル状のシートが存在し、乗客のほとんどは眠りについている。すべて、彼女の知らない人間である。彼女を知る人間はいない。彼女は一人きりだった。

 ふふっ。

 再び笑った。笑いが、ほんの少し顔に出た。

 そろそろ船は亜光速空間に移行する。

 彼女は今、自由を手に入れた。次は、理由を手に入れる番である。準備はすでにできている。

 視界の中に、いくつかの淡い光が浮かんでいる。その内のひとつが、ゆるやかに前方へと流れていく。星々が映った大型のスクリーンへと吸い込まれて、消える。

 それが合図となったのか、ゆっくりと星々が前方へと収縮していく。相対的に船が後退するようかのような錯覚が生まれるが、実際には逆である。船はものすごい勢いで進んでいる。

 不思議な感覚。

 まるで、大好きな宇宙が、今か今かと待ち構えているようである。

 迷いも、憂いもない。

 彼女の想いを乗せて、一隻の宇宙船が目的地に向かって疾走している。

 そう。物語はすでに、その幕を開けていたのだ。

<次回予告>


 シン・スウ・リンは、宇宙船の中に乗り込んでいった。

 ゲートをくぐり、客室に入る。民間の宇宙船としては、かなりの大型船である。


次回マーベリック

第一章 第一話「天国」 


「短い船旅だが、まぁ、よろしくな」

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