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下ネタとか多いのでそういうの苦手な人は飛ばしてください
エロ小説のエロは、エロく無い。
いや、エロいのだが、エッ◯シーンとか普通に興奮するのだが、しかしエロ小説のエロはエロさ故のエロではなく、芸術を追求する上での必要エロ的なものであって、por●●ubとかそういうので興奮するのとはまた違う種類のエロさだと思うのだ。
そのエロは美のスパイス。
ラーメンでいうところの生姜みたいなものだ。
エロによって作品の味わいが一層深まるのだ。
つまり何が言いたいのかというと、エロ小説とはとても清潔なもので、時に涙を流し、時に胸を高鳴らし、時にち◯ち◯をぼ◯◯させる志向の作品であることが非常に多いのだ。
そしてそれにも関わらずエロ小説を卑猥だとか不潔だとか言って非難する世の中の風潮に、僕は非常に辟易しているのだ!
「なあ、そう思わないか、慎吾?」
「ん、よく分からないけどそうなんじゃない?」
カツ丼のカツをかじりながら大して興味もなさそうに返事をしたのは、僕の親友である加納慎吾。
イケメンでサッカー部でリア充という、絶対に僕が友達になれないだろうなと思っていた人種だ。
どうして親友になったのかはいまだに謎だ。
エッチな趣味が合うからだと個人的には思っている。
今は昼休みであり、学校取り付けの食堂で慎吾と僕は飯を食っている。
慎吾はカツ丼で、僕は一番人気メニューのカレーである。
カレーはお肉とじゃがいもとにんじんだけのシンプルなやつだが、高校生が昼食として食べる分には量も十分にあり、コスパもいいのが人気の理由である。味は普通である。
「そういえば慎吾、この間貸した『Hな後輩のヒトリゴト♡』もう読んだか?」
カレーの中のニンジンを皿の端っこに追いやりながら質問する。
『Hな後輩のヒトリゴト♡』とは、大人気エロ小説家のナピョタ先生の出世作である。
原点にして頂点。
知名度こそそんなに高くないものの、僕の中では同じくナピョタ先生著の『どこ触ってんのよ、もう♡』と一二を争う完成度だと評価している。
あまりにも名作すぎて、三度も読み返してしまった。
そして、三度とも泣いた。
マジで神作。
モエちゃん(後輩)尊し。
ということで、慎吾にもこの感動をぜひ味わってもらいたいと一週間くらい前にまとめて貸し出していたのだ。
「読んだけど、そこまでじゃない?」
慎吾は無感動に言い放つ。
「......それマジで言ってんの?」
「まあ」
「やべえぞそれ。どうなんだ、人として、いや男として、いや貧乳付きの男子高校生として」
「どんどん範囲狭くなってってない?」
「どうでもいいこと気にする奴だな」
慎吾はカツ丼をむしゃむしゃしながら理路整然と続ける。
「その前の、ナピョタ先生の『どこ触ってんのよ、もう♡』はまあまあよかったけどね。ただ今回のは、モエちゃんの可愛さを強調しすぎてストーリーとしての構成がちょっと荒っぽくなってる感があるんだよ。悪い言い方になっちゃうけど、その他のヒロインなんてほぼカカシと変わらないし。もはやいなくてもいいくらいだし」
うっ......さすが慎吾、痛いところをつく。
慎吾はエロ小説に関してかなり辛口だ。
しかし、見る目は確かなのだ。
言っていることは全て的を射ている。
反論は難しい。
でも、そんなこと関係ないくらいモエちゃんには魅力があるわけで。
しかも貧乳なわけで。
「少なくとも僕のセンサー(ちんぽ)には反応しなかったかな」
とどめだと言わんばかりに慎吾が言い放つ。
そしてドヤ顔を向けてくる。
いつの間にかあんなにこんもり守られていたカツ丼は完食されていた。
食べるのがお早いことだ。
「ちげーよ、エロ小説はポケモン(ちんぽ)で読むもんじゃねーよ」
苦しながらに、反論する。
「エロ小説をチャップリン(ちんぽ)で読んで何が悪いんだよ。逆にそれ以外のどこで読めってんだよ」
「読むんじゃない、感じるんだよ! ”心”でな!」
「いや、感じるのはどちらかというと”心”じゃなくてジャムおじさん(ちんぽ)だろ」
「うっ......」
すぐに論破されてしまった。
確かに慎吾の言う通りかもしれない。
そうだよな。
エロ小説っておちんぽだよな。
なんだかんだ言って。
「ていうか前も言ったと思うんだけど、俺、年上好きなんだよね」
慎吾が付け足すように言う。
「そこらへんは心配しなくていいぞ。ナピョタ先生は他にも『ドSな先輩のヒトリアソビ♡』も書いているからな。でもできれば僕は慎吾に後輩の良さというものを知ってもらいたかった。ちょっと照れ屋さんでS気のある後輩の良さに気づいて欲しかったんだ。それを知るには『Hな後輩のヒトリゴト♡』が一番良かったんだがな......」
「秀は筋金入りのロリコンさんだもんね」
秀というのは僕の名前である。
響きがかっこいいから気に入っている。
フルネームは三好秀。
クラスでは秀くんとか秀っちとか呼ばれている。
「言っとくけど、後輩好きをロリコンて呼べるお前の感覚はそうとうおかしいからな? どんだけ年上に振り切ってんだよ、お前」
「ただの年上じゃなくて、巨乳で優しい年上ね。後輩は確かに魅力的ではあるけど包容力は年上の方が上じゃないかな」
「ああ、それは僕も認めるところだ。包容力と肉圧力に関しては、巨乳のお姉さんに勝るものはない。でも貧乳にはそれを失ってもあまりある最終兵器がある。それはな、恥じらいだ。自分の胸にコンプレックスを感じていて、それを中のいい女友達とかにいじられて照れたり隠したりする時、最も貧乳は光り輝くのだ。それこそおっぱいの柔らかさなど吹き飛んでしまうほどにな!」
「秀ってこういう話する時だけ言葉に熱がこもってるよね。普段は落ち着いているのに」
「当たり前だろ、こんなにも熱い話をしてるっていうのに。熱くなれよ、心もち◯こも!」
「うん、わかった。わかったからもうちょっと声量下げてくれない? 隣の女子がドン引きしてる」
隣を見ると、ポニーテールの女の子が眉を顰めてこちらをみていた。
同級生かな。
顔は見たことある気がするけど、名前は知らない。
要するにモブだ。
僕と目が合うと、すごい勢いで視線を外された。
「怖がらなくていいよ?」
気を使ってそういうとその女の子は怖い目でギロリと僕を睨み、お盆をもって他の席に行ってしまった。
「どうしたんだろうな、怖がらなくていいって言ったのに」
「秀、お願いだから将来警察沙汰になるようなことだけはやめてね。あと後ろにお客さんだよ」
振り向くと、とても冷たい目をした後輩がお盆をもってこちらを見下ろしていた。
「なんだ、美咲か」
「......ゴキブリですか」
「ん、ゴキブリ? どこにいるんだ?」
「よく喋るゴキブリですね」
「喋るゴキブリがいるのか。ゴキブリも進化したものだな」
どこにいるのかはわからないが、本当にそんなゴキブリがいるのなら是非とも会って見たいものだ。
「美咲ちゃん、久しぶりだね。また可愛くなった?」
相変わらず女慣れした口調で慎吾が話しかける。
「お久しぶりです、慎吾先輩。相変わらずお上手ですね」
ふふふと麗しく笑った美少女、美咲は非常に優秀な一つ下の後輩である。
本名を矢橋美咲。
校内美少女ランキングの集計を取ったら三位以内には絶対入るだろうほどの美少女。
肩にかかるくらいで切りそろえられた綺麗な黒髪とどこまでも整った顔は、神の芸術品かよと突っ込みたくなるほど美しい。
美咲が素晴らしいのは容姿だけではない。
勉強もできる。
校内順位は常に学年一位。
特に国語の偏差値は90を超えているらしい。
なんだ、90って。聞いたことない。
ちなみに参考までに、僕の国語の偏差値は50前後だ。どうでもいいね。
去年から美咲と僕は同じ文芸部に属していた。
そのよしみで部活の時以外もこうやってたまに美咲に話しかけられるというわけである。
「どうしたんだ? なんか用事でもあるのか?」
「用事がないと先輩に話しかけちゃいけないんですか?」
「そんなことはないが、僕たちは今貧乳談義で忙しいんだ」
「ねえ秀、そうやってさらっと人のこと巻き添えにするのやめてもらえないかな。僕は秀の貧乳談義を聞かされているだけだからね?」
不服そうに慎吾が横から口を挟んでくる。
さっきまであんだけち○こち○こ言っておいて、なに今更被害者づらしてんだよ。
「それに、用事ならありますよ。今いいですか?」
「おお、いいぞ。巨乳はタイプではないが、美咲だけは別......な、なんだよ、その汚らわしいものを見るような目は......」
「......慎吾先輩、よく昼休みまでこんな変態に付き合っていられますよね。尊敬します」
美咲が慎吾に同情の視線を送る。
「まるで慎吾が僕と比べてまともであるみたいな言い方だな」
どうやら美咲は、慎吾について何か誤解をしているらしい。
ここは早急に誤解を解いておかなければ。
「美咲、慎吾の甘いルックスに騙されてはいけないぞ。実は僕よりずっとコアな性癖を持っゴフウッ!!」
「モッゴフウ? どうかしたの、秀、急に脇腹抑えて」
「......ぇめえっ......」
「ごめんね美咲ちゃん、秀が今はちょっと喋れないみたいだから、急ぎじゃないならまた後でにしてくれる?」
「はあ、情けないですねえ」
「......ンゴ、コロス......」
「わかりました。どうせ放課後に部室で会いますからその時に伝えます」
「......ンゴコロス、シンゴコロ......」
「ん、なんて言ってるのかな?」
「......まあいいです。私、暇じゃないのでもう行きますね。秀先輩、部活さぼらないでくださいよ」
脇腹を抑えて呻いている尊敬すべき先輩を心配するそぶりもなく、美咲はスタスタと行ってしまった。
美咲は文芸部の他にも生徒会を掛け持ちしている。
結構忙しい娘なのである。
でもいくら忙しいとはいえ声も出ないほど痛みに苦しんでいる尊敬すべき先輩を気遣う素振りくらいはしてもいいんじゃないでしょうか。
「行っちゃったねえ」
「......シンゴコロ......くっ......っぷはあ! 生き返ったあ!!」
「お、やっと心肺蘇生に成功したみたいだね、秀。心配したよ」
「嘘つけ」
「はは、本当だよー!」
本当に心配している人間はそんな元気よく喋らないぞ!
「それにしても美咲のやつ、僕以外の相手にはマジで愛想いいよな」
「慎吾にだけは気を遣ってないだけじゃないかな? 美咲ちゃんきついこと言ってるけど、秀と話すの全然嫌そうじゃないし。......もしかして、秀に気があるんじゃない?」
慎吾は面白そうに頬杖をつきながらニヤニヤしている。
今の会話のどこを聞いていたらそんなふうに思うのか。
自称女心九十パーくらいわかる慎吾らしいが、僕はいまいち信用していない。
「まあ、あいつのきつい言葉自体は嫌いではないからな。むしろもっと罵ってくれても全然大丈夫だ」
「きも」
「おい慎吾、心の中のセリフが口に出てるぞ気を付けろ」
「いっそ告白してみたら? 案外OKもらえたりして」
「お前完全に面白がってるだろ。だが美咲は残念ながら僕のタイプではない。なぜなら彼女は巨乳だからな。そして僕は貧乳好きだ」
「美咲ちゃんめっちゃ人気あるから、誰かに取られる前に告白しちゃった方がいいよ」
「人の話聞いてた?」
聞いてないよね、知ってる。
これだからリア充は。
僕としては、慎吾と美咲の方がお似合いなんじゃないかと思ってしまう。
両方とも美男美女だし。
こんなことを言っても慎吾は「いやいや、僕は年上が」と言い出すだけだろうが。
まあいい。
カレー食べよ。
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