第九話 旋風と績
その日は…空が青く染まっていて、天気でいうと、快晴。
太陽の日差しを浴びて、僕らはそこにいた。
「…まったく…。どうしたってんだ?績。」
「あんたに会いにきた。」
と僕は言う。近くには、見知らぬ人がいた。がどこかで見たことのある制服だなと思った。
「…旋風…今日こそ、約束の時だ。交渉はどうなんだ?」
「…それが…な。」
と旋風は語り始めた。
「…またか。」
「しゃあないだろ。」
とその時だった。四方八方から、ヤクザが迫ってきた。
「…これはなんの歓迎パーティだ?旋風」
「知らねぇ。」
相手は集団でバイクからパイプを取り出して、こちらへ近づいてきた。
「やるか。」
「ああ。」
そう言って、僕らは向かった。
旋風は身軽なステップで、パイプをよけ、相手の懐に、殴りこむ。
績は、それとは逆に、近距離まで、相手のパイプを近づかせ、それを片手でつかみ、懐に、ひじをあてた。
その時だ。
「ごはぁっ!?」
旋風が、脳天を打たれ、倒れてしまった。
「つ・・・旋風!!!」
「くそぉ!!!」
僕は、無我夢中で、奪ったパイプを振り回した。
一人は、吹き飛ばされ、一人は歯がおれ、また一人は顔を打たれ、倒れた。
そうやっているうちに、段々と、旋風の体力も回復していた。
「う…。」
わずかな力で起き上がろうと、両手を地面につけた。
しかし、それさえも、その者によって、倒された。
やはり、旋風はうごけない。
そう思った績は、こういった。
「…兄貴…。」
そうするうちに、夕日すらも見えてきた…。
「はぁ…。はぁ…。」
息も切れて来ていた。
パイプを振る力も、一発一発振るたびに失われていった。
「くっ…もう…無理だ…。」
績の手は、地面に向かって、ぶらん ぶらん と振れていた。
「もう…手が…振れない…」
その瞬間、績の希望は、無謀な行動へ出た。
その行動は、体当たりだ。
だが、本人はもちろん、他の誰もがそれはバカだと思っていた。
が、思いを込め、それを実現させるくらいの力はあった。
「だぁぁぁ!!!」
「馬鹿が!」
その一撃は、遠く、遠く、離れていく…空には、赤い液体が飛び散り、それを風が運んでゆく。
その液体は、服に付着し、服を湿らした。
「血…?」
僕に、明日というものがあるのだろうか…。
「きっと…あるんじゃ…ない、かな?」
その言葉は今も覚えている…。
その言葉は、僕に希望を…。明日を生きる希望をくれた。
どうしても届かなかった明日の扉が、もう目の前にある気がしていた…。
「私にはわからないけど・・・それは、あなたの大切な人に、「明日があるさ」なんて言ってあげたりするんじゃないのかな?」
そういいながら、こちらに笑顔を向け、こういった。
「少なくとも、私は「明日を生きる」ことを大切な人に伝えたい。」
「…!」
僕は、初めて、大切な人を守りたいと思った…。
「旋風…。」
「さあ。どうすんだガキィ?」
僕は…。
「…」
僕は…。
「ゃ…って…さ」
僕は…。
「アァ?聞こえねぇな。ガキィ!」
僕は…。
「やってやるさ!何度倒れようともうくっしない!御前らが旋風とどういうわけあいかは知らないが、大切な人を傷つけるのならもう、容赦はしねぇ。」
「なっ何言ってんだ?このがきぃ」
助けたい!旋風を…助けたい!
「助ける。旋風を助けるためだけに、今を生きる。」
僕は、落ちていた鉄バットを拾って、もう振れない手で握り、体ではなく、己の精神で動いていた。
「これなら…行けそうだ…。たとえ、こんなにいても…。」
僕は、ゆっくり、ゆっくりと、旋風のいるところを目指した。
そこには、束になっているヤクザが10人ほどいた…。
僕は、そのヤクザに無我夢中で、立ち向かった。
攻撃をかわし、すぐに、バットを振り、一人、一人と蹴散らしていく。
もう、周りには赤い液体がドロドロと流れていた。
そう続けてゆくと、自分で無くなっていった…。
「…」
バゴッ!バゴッ!
という効果音が辺りに響くと、それに応じて、ヤクザが一人、また一人、赤い液体を吐きだすのである。
「さあ、おまえで最後だ…。」
「…なるほど。それはいいアンサーだ…。といいたいところだがね。」
と、その人は、片手で旋風を持ち上げ、こういい残した。
「また会うことを楽しみにしているよ。それまで、この男は借りておくよ。」
「まっ待て!」
その一人は…誰だったのか…わからない、がそのことはもう記憶にはない…。
この世界で起きていることは…。




