91「エンジーの気持ち」③
「それで実際はどうなんだ?」
「……その話、まだ続けるの?」
ルルウッドが質問を続けてくるので、エンジーがジト目になる。
「せっかくの機会だからな。思い返すとこういう類の話をしたことがなかったので、最後まで話をしたいなと思ったんだ」
「そうだね。思えば、恋愛関係の話をしたことはなかったね」
「お互いに必死だったからな。恋愛をしている心の余裕がなかったというか、なんというか」
「うん」
しばし沈黙が続く。
どちらも何と言うべきか悩んでいるのだろう。
先に口を開いたのは、エンジーだった。
「あ、あのさ」
「ああ」
「僕はその、恋愛がどういうものかわからないし、初恋だってちゃんとしたことがないんだけど――きっと恋心が僕の思う気持ちなのなら、うん、僕はミナ先輩に恋をしているのだと思う」
エンジーがはっきりミナへの感情を口にした。
ルルウッドは、わずかに目を見開く。反射的に何かを口にしようとしたが、出かかった言葉を飲み込み、一度深呼吸をした。
「打ち明けてくれてありがとう、エンジー」
「ううん。ルルウッドは僕の家族で親友で恩人で兄弟じゃん」
「家族でいいじゃないか」
「そうなんだけど、家族以上の存在だからさ」
「光栄だよ」
窓の外から暗い空を見上げたエンジーは、言葉を続けた。
「僕にとって、尊敬する人はレダ先生なんだけど、ミナ先輩はなんていうのかな……少し大袈裟なことを言ってもいい?」
「もちろん」
「ミナ先輩は、僕にとって――光、なんだ」
想像以上に、エンジーの中でミナの存在は大きかった。
「僕は、ほら、最初はあんなだったでしょう?」
「実に奇抜だったな。堕天使殿」
「ちょっとやめてよ! ははは、でもさ、ありのままになった根性なしの僕に嫌な顔をしないで世話を焼いてくれて。もちろん、年下の女の子にお世話になって情けないなって思ったんだけど、あまりにもミナ先輩の隣が心地よくてさ」
「ミナさんは素晴らしい女性だ。診療所だけではなく、街の人々にも愛されている」
「うん。そんなミナ先輩がエンジーエンジーって呼んでくれるのが嬉しくて。早く一人前にならなきゃって思ったんだけど、いつの間にかミナ先輩の弟分になっちゃってたんだ。でもさ、嬉しかったんだよ。言葉にできないけど、涙が出るほど嬉しかったんだ」
エンジーは拳を強く握りしめた。
「僕は、ルルウッドに助けられて、仲間たちに支えられて、レダ先生とご家族に導かれて、ミナ先輩に元気をもらったんだ」
「――ミナさんと一緒にいるエンジーはいつも輝いていたよ」
「ありがとう。そんなミナ先輩のことをいつも考えていて、災厄の獣が来るなんて聞いた時にはミナ先輩のことしか考えられなかった。ずっと自分のことを誤魔化していたけど、うん、僕はミナ先輩のことが大好きなんだ」
ルルウッドはエンジーに手を差し出した。
握手を求められているのだと気づいたエンジーが少し恥ずかしそうに手を握る。
すると、ルルウッドは力強くエンジーの身体を引き寄せて抱きしめた。
「――良かった。ずっと心を痛めて苦しんでいたお前に恋が訪れて良かった。人に傷つけられて泣いていたお前が笑顔になってくれて本当によかった。友として、兄弟として、家族として、私はミナさんに心から感謝する。頑張れ、エンジー。頑張って、ミナさんと良い関係を築くんだ。お前は幸せになっていいんだ。ならなければいけないんだ」
ルルウッドの顔はエンジーには見えない。だか、少し、声が涙にかすれていた気がする。
エンジーは強く強くルルウッドを抱きしめ返す。
兄のようにずっと見守ってくれていた親友に、心からの感謝を伝えた。
「――ありがとう、ルルウッド。僕の大切な家族」




