88「レダとルナのお話」②
「……パパぁ。大袈裟すぎぃ。娘なんていずれは嫁にいくじゃない」
「何度も言っているけど、俺とミナが親子になってまだ一年も満たないのに、もうお嫁に行くとか悲しい!」
レダは泣きそうだった。
たくさんの出来事があったが、まだ一年にも満たない時間しか過ごしていないのだ。
もっとたくさんの思い出を作りたいし、もっと父と娘としての時間を過ごしたいと思っている。だが、忙しい。忙しいながら、ミナはいい子で手伝いをしてくれるし、同じ治癒氏を目指してくれている。そんな愛娘が嫁に行くにはまだ早いのだ。
「ミナはまだ成人もしていないのに」
「あと三年もないわねぇ。あっという間ねぇ」
「え、エンジーと十歳も年が離れているし!」
「あのねぇ、パパとあたしのほうがぁ、もっと歳が離れているんですけどぉ!」
「そうだよね! 人のこと言えなかったね!」
エンジーとミナの年齢差より、レダとルナの年齢差のほうがあるのだから、年齢云々で反対派できない。
「というかぁ、パパってエンジーはミナは結婚相手として認めないって感じぃ?」
「いや、そういうわけじゃないんだよ」
エンジーのことは好きだ。
歳の離れた弟のように思っている。
だから、彼を食事に招いているし、何かと構ってしまう。
ルナたちも、エンジーのことをレダと同じように弟として扱っている。
レダに血の繋がった家族はいないが、血の繋がり以上に絆で繋がっている家族がいる。
その家族の中に、エンジーももちろんいるのだ。
「エンジーのことは大事な家族だと思っているよ」
「……えっと、家族と家族がくっついても家族なんだから、よくない?」
「あのね、ルナ。俺はエンジーがどうこうって話じゃなくてね、ミナがお嫁に行くことが嫌なだけなの!」
「わがままじゃん!」
「わがままだよ! 父親なんてこんなものだから!」
「パパの場合は嫁が複数人いるんだから、父親からしたら天敵みたいな人だと思うけどぉ!」
「がはっ」
ぱたん、とレダが倒れる。
言われなくてもわかっている。
男親からすると、レダは決して好まれない人間だろう。
「でも、真面目にこの話ってちゃんと考えたほうがいいと思うのよねぇ」
「ルナ?」
「あんまりこういうことって言いたくないんだけどぉ、パパって治癒士じゃん?」
「そう、だね?」
「災厄の獣を倒してぇ、でっかい魔石をゲットしてぇ、結界術も習得しちゃったじゃない? あたしのことはさておき、王女様のアストリットに辺境伯の妹ヴァレリー、エルフのヒルデが奥さんなんだから、パパと仲良くしたい人ってたくさーんいると思うのよねぇ。貴族とか貴族とか貴族とかぁ」
「貴族ばかりだね。でも、そうだね、可能性としてはあるかもしれないね」
そんなことはない、とは言わない。
「パパに女性を紹介するっていうのは難しいからぁ、子供の結婚ってなる可能性だってあるでしょう。そうなると、ミナによくわかんない男が集まってくるのよねぇ」
「――ミナが望まない結婚を強いられるなら、さすがに大暴れするよ?」
「もうパパったらぁ。そういう面倒くさいことになる前にぃ、ミナとエンジーを公認にしておくのよぉ」
「…………」
「目が死んじゃっているんですけどぉ! あのね、ミナが憎からず思っているエンジーだっていつかは結婚とかするんでしょう? パパと同じように治癒士、災厄の獣を倒して、結界術を習得しているんだから、貴族や商人の女がわらわらとくるわよ! わらわらと! もしもね、エンジーが誰かと結婚しますってなったら、ミナしょんぼりしちゃうんだけどぉ。しょんぼりしたミナ、みたいぃ?」
「見たくないです!」
「じゃあ、そういうことね」
「…………覚悟を決める時が来たか。とりあえず、エンジーと本気で一対一のお話をしよう。――主に拳で」
「やめなさい」
「……だってぇ!」
「パパとこの話をするとまったく進まないのよねぇ。あたしだって可愛い妹には幸せになって欲しいから、エンジーを無条件で受け入れるわけじゃないからぁ。お姉ちゃん的にきちんとお話しするからぁ」
にこり、と笑ったルナだが目が笑っていない。
レダが親馬鹿であるのなら、ルナはシスコンだ。普段は隠しているし、冷静に振る舞っているが、その胸の奥に宿る感情は凄まじく強い。
「パパが想像している三十倍はあたしは厳しいからぁ!」
ちょっとだけ、本当にちょっとだけレダはエンジーを応援したくなった。




