87「レダとルナのお話」①
レダ・ディクソンは今まで目を逸らしてきた真実と向き合おうとしていた。
だが、それには勇気が必要だった。
今から知るであろう真実を受け止めるくらいなら、「災厄の獣」ともう一度戦うことを選ぶくらい、辛い。
「……ルナ、俺はね、少し前から気になっていたんだけど」
レダは、妻であるルナとふたりで部屋にいた。
愛娘ミナの実姉であるルナだからこそ、レダが聞くべき相手だと思ったのだ。
「どうしたの、パパぁ? 話があるって言ったけどぉ、もしかして悪い話とかぁ?」
「……悪い話、何かもしれないしし、良い話なのかもしれない」
「なぁに、それぇ?」
よくわからない、とルナが首を傾げた。
ルナがレダを見て、不審に思うのも無理はない。
レダは、今から勝てないとわかっている戦いに挑む戦士みたいな顔をしているのだ。
ルナでなくても、変に思うだろう。
「実は……ミナのことなんだけど」
「ミナ?」
「もっと、言うのなら、ミナとエンジーのことなんだけど」
「あー」
レダの少ない言葉でルナは察してくれたようだ。
どこか「いまさら?」みたいな顔をして苦笑しているように見える。
「前々からね、少しだよ。本当に少し、ミナとエンジーの距離が近いような気がするんだけど」
「そうねぇ。というかパパったら随分と遠回りな言い方をするのねぇ」
「直接的な言い方をすると心臓が止まるかもしれない」
「そんなことはないでしょ!?」
椅子に座っていたルナが、吹き出した。
もしかしてお酒でも飲んでいるのではないかとレダを伺うが、シラフだ。
酒の匂いは一切しない。
むしろ、一滴も酒を飲んでいない状態でこれなのかと、腹に力を入れなければ大笑いしてしまいそうだ。
「真面目にお願いします!」
「はいはい。まあ、ミナとエンジーの距離が近いって言うのは間違いないわよねぇ」
「……やっぱり」
「ミナはパパの一番弟子だからね。弟弟子のエンジーに何かと構うのは普通……じゃないわねぇ」
「――――ぐはっ」
「パパ!? なんでダメージ喰らっているの!?」
胸を押さえて苦しむレダに、ルナが目を見開いた。
「ルナ……君も父親になればこの気持ちがわかるよ」
「あのね、どう頑張ってもあたしは父親にはなれないんですけど!」
「そ、そうだったね。ごめん」
「まったくパパったら。気持ちはわからなくはないけれどね。可愛い妹が、最近ちょっと姉離れ気味だしぃ! でもほら、エンジーって年上のくせにこう年下みたいじゃん。パパもそうだけど、ちょっと頼りない母性をくすぐる系じゃない?」
「まって、俺とエンジーってそんな風に思われてるの!? というか、同じ感じなの!?」
「うーん、細かくいうと違うわよ。あたしはエンジーは全然タイプじゃないし? パパ一途だし」
「あ、ありがとうございます」
「ふふん! どういたしましてぇ! でもほら、エンジーもパパも普段はちょっと優しすぎるところはあるけど、いざとなるとちゃんとしているでしょう? エンジーは輪にかけて頼りないけど、災厄の獣との戦いで一皮剥けたというかなんというか」
「そう、だね。エンジーは頑張ってくれたよね。エンジーがいたからみんな無事に帰ってこられたと思う」
エンジーだけではない。
あとから合流してくれたテックスたちを含めて、ひとりでも欠けていたらレダたちは「災厄の獣」に破れていただろう。
「それを抜きにしてミナにとって可愛い弟分であることは変わりないんでしょうけど」
「ぐはっ」
「まどろっこしいことは好きじゃないからはっきり言っちゃうけど、ミナはエンジーが好きよね」
「どぅへっ」
「でも、その好きが恋愛なのか、親愛なのか、ちょっとまだ曖昧なのよね。お姉ちゃんが見る限り、恋愛だと思うけど」
「ごほっ、ごほっ」
「そ・れ・よ・り・も! エンジーの方よ! エンジーは間違いなくミナを意識しているわぁ! 間違いないわよ!」
ルナの遠慮ない言葉に、レダはついに倒れた。




