86「ウィルソンとウェルハルト」②
「教会関係内の情報漏洩者は把握した上で、処罰します。ただし、私は一応聖職者ですので、安易に追放や重い罰を与えることはしません。レダくんたちに直接的な被害が出ていない以上、厳重注意と接近禁止、あとはいくつかの小さな罰を与えて終わりにしたいと思っています」
「――甘い、と言いたいが、私に教会内のことに関してなにかをしろという権限はない以上、おまかせしよう。それに、レダ兄上のことを考えると甘いくらいでいいのかもしれない」
「そうですね。では、お任せください。当人たちも反省していますし、後悔もしています。追い詰めることはしたくありません」
仮に、レダたちに何かしらの害が及んでいたら大きな問題になっていたが、ならなかった以上、大きな罰を与えることはできない。
万が一、情報漏洩者を厳しく処罰したことを、レダたちが知ってしまうと、王都での時間に嫌なものがまとわりついてしまうことになる。
アムルスに戻り、王都のことを思い返した時、嫌なことまで思い出してしまう可能性があることは避けたかった。
「ライリート男爵夫人が情報を堰き止めてくれたおかげで、レダ兄上たちのことを探っていた愚か者たちが我慢できずに動きを露わにしてくれた。正々堂々と接触しようとしていたものは問題ないのだが、中には……家族を攫ってでもと思う阿呆もいたので頭が痛い」
「……なんと短慮な」
「金と力、あとは権力か、それらにものを言わせて、優れた治癒士であるレダ兄上を我が物にしたかったようだ」
「そんなことをしても思い通りにはならないでしょうに」
「まったくだ」
貴族たちは、災厄の獣を倒したレダ・ディクソンを家臣にしようと企んでいた。
彼を手中に収めれば、優れた治癒士たちもついていく。
さらに、現在建て直された回復ギルドにも口を出せる可能性がある。
わかりやすく欲深かった。
さらに、ディクソン一家の内情を知る者は、辺境伯の妹、王女、聖女、エルフ、貴族の子供たちと縁ができることもわかっていたので、必死になっただろう。
家族を攫おうなどと短絡的な貴族は数える程度だったが、大金を用意した者から、自分の娘を使って婿入りさせようと企んでいる者もいた。
「誰もがローデンヴァルト辺境伯のような欲のない人間ではないのさ」
ルルウッドの実家レイニー伯爵家を例に出せば、息子が弟子入りしていることで縁はできている。
無茶なことをして反感を買うよりも、友好的に関係を育てて行った方が良いとわかっているのだ。
もちろん、レイニー伯爵がレダを利用するつもりがないというのも大きい。
「こちらもまだ何もしていない人間を罰することはできないが、警告は十分に与えた。明日には、レダ兄上たちは問題なく街を歩けるだろう」
「そうであればよかったです」
「ただ――冒険者ギルドだけはわからん」
「ギルド長をはじめ、不正に関わっていた幹部たちが捕縛され、上層部がいないのでしたね」
「頭が痛いことにな。大きく古い組織というのはどうしても……いや、失言だったな申し訳ない」
「いえ、気にしていません」
冒険者ギルドのことを言おうとしたウェルハルトだったが、目の前にいる教皇がトップである教会こそギルドよりも大きく古い組織だ。
組織の腐敗はどこにでもある。むしろない組織の方が珍しい。
教会は潔癖に腐敗を排除しているが、少しずつ積もって大きくなっていくのは仕方がないことだ。
「現在、冒険者ギルドはどうしていますか?」
「我が国の冒険者ギルドを回復ギルドとまとめてしまおうと考えたのだが、アマンダにこれ以上仕事を増やされたら死んでしまうと怒られてしまったよ! はははは!」
「……回復ギルドは改革が成功したことで依頼が増えましたからね。アマンダ殿の多忙は目に浮かびます」
「冒険者ギルド内で上役たちを決めることもそうだが、それを仕切る者も誰が適切かギルドが頭を悩ませている。個人的に、かつて伝説と呼ばれた冒険者がアムルスから王都に来てくれているので彼に任せたいのだが」
「きっと飄々と断られてしまうでしょうね」
「ははは、違いない。すまないが、レダ兄上たちの護衛を引き続き教会側でお願いしたい。こちらも準備が整い次第、父上と母上にレダ兄上を会わせる予定だ」
「ええ、承知しています。今回の一番の目的は、レダくんの陛下へのご挨拶ですから」
「あと少しで、姉上が大手を振ってレダ兄上の妻として公式になる! 姉上のためなら、このウェルハルト! 寝食をせずに何時間でも戦えます!」
「……殿下は昔から変わりませんね」
「当たり前だ! 私が生まれ、育ち、いずれ王になってこの国を導くのは――すべて姉上の幸せのためなのだから!」
血走った目をして誇らしげに胸を張るウェルハルトに、ウィルソンはちょっと引いた。




