80「二回目の結界術共有」②
エンジー・ライリートは緊張していた。
治癒士としてちょっとだけ自信がついたところに、まさか結界術の適性を知ったことで驚きを隠せなかった。
だが、このくらい「災厄の獣」と対峙したことを思い出せばどうってことはない。あの時の忘れられない恐怖に比べれば、今後何でもできそうな気さえしていた。
――だが、甘かった。
「いくよ、エンジー」
「は、はは、はい!」
女の子と向かい合って両手を握り合うことなど初めてのことで、かつてないほど緊張と動揺をしていた。
今までミナと手を繋いだことはある。
年下の女の子なのに、姉弟子であるミナにエンジーは甘えていた。
なので手を繋いで引いてもらうこともあるし、ご飯を「あーん」してもらったこともある。
気恥ずかしいし、照れてしまうのだが、ミナの善意はとても嬉しいのだ。
だから甘んじていたのだが、さすがにこれは緊張する。
両手を繋ぐと、ミナの暖かい体温と指の細さを感じ取れた。小さな手は、柔らかくて、不思議とドキドキする。
まっすぐに瞳を向けられて、笑顔を浮かべられると心臓がびっくりして跳ね上がってしまう。
これだけ近くにいて、自分の緊張に気づかれませんようにと祈った。
だが、その祈りはすぐにできなくなった。
次の瞬間、ミナの魔力が流れ込んできたのだ。
(――ミナ先輩の魔力……とても、大きいっ)
春の日差しのような、適温のお風呂のような暖かで包み込んでくれる魔力だったが、とにかく規格外な魔力量であることを理解した。
かつて宮廷に勤める魔法使いたちと顔を合わせたことがあったが、ミナほど魔力を持つ者はいなかったはずだ。
レダも規格外であるが、ミナの方が凄まじいと思えた。
――ミナ・ディクソンは成長期なのだ。今後、どれだけ成長していくのかエンジーには想像さえできない。
思考が途切れる。
ミナの魔力がエンジーの中に流れてくる。
止める方法は知らない。
エンジーの中にミナが入ってくるような不思議な感覚があった。
顔から炎が出そうなほど、恥ずかしい。
なぜ恥ずかしいのかわからない。
でも、恥ずかしい。だけど、この心地よさを手放したくないと思ってしまった。
そんな欲望を抱いてしまったことに羞恥を覚えてしまう。
エンジーの魔力が抜けていく。
違う。
ミナがエンジーの魔力を使っているのだ。
彼女と握る手を介して、魔力が巡る。
そして、ひとつになった気がした。
まるでとろけそうな、初めての感覚だ。
ミナが自分の中に入ってくる感覚と、エンジーが彼女の中にはいる感覚が繰り返される。
脳がどうにかなってしまいそうだ。
心がむずむずする。
泣きそうで、笑いそうで、でもとても切ない。
この感情に名をつけるのであれば、「幸せ」だ。
他の感情がもっともっと流れ込んでくる。
自分の感情なのか、ミナの感情なのかわからない。
――だが、とても幸福だった。
エンジーは感謝した。
ミナと出会えたことに心から感謝した。
彼女がいたから、エンジーは頑張ってこられたのだ。
――エンジー・ライリートにとって、ミナ・ディクソンは…………。
そこで意識が飛んだ。
あまりにも心地よすぎて、気持ち良すぎて、鼻から何かが出てくる感覚もあったが、今はこの多幸感に包まれながら目を閉じたかった。




