14「婿入り?」①
領主の屋敷で迎えた朝は爽快なものだった。
上質で柔らかなベッドでの睡眠は、溜まっていた疲れを吹き飛ばしてくれた。
普段から世話になっているリッグスの料理も美味しいが、領主お抱えの料理人が作る食事も絶品だ。
さらに言えば、イケメンの領主、美人の領主夫人と妹、そしてかわいい娘たちと囲む食卓はなんとも緊張したものの、特別なものを感じた。
そんな朝食を終えて、そろそろお暇しようとしていたレダをティーダが自室へ「話がある」と呼んだ。
断る理由もなかったので彼の部屋に向かう。
愛娘たちのことは、ガブリエラと彼女の娘たちがお茶に誘ってくれたので任せることにした。
どうやら領主の娘たちはルナとミナをとても気に入ってくれたようだ。
「帰ろうとしているところを呼び止めてしまってすまないな」
ティーダの私室にはヴァレリーもいた。
彼女はどこか緊張したような表情を浮かべているも、笑顔をレダに向ける。
気のせいかな、と思うことにしてティーダに促されるままソファーに座った。
「気にしないでください。それで、なにかありましたか?」
「その、だな」
歯切れの悪いティーダに、レダはハッとして立ち上がる。
「まさかっ、ヴァレリー様の治療になにか問題でも!?」
「違う! そうではない! ヴァレリーはよくなった。そうではないんだ。とにかく座ってくれ」
「ふふふ、レダ様。わたくしの身体はとても調子がいいんです。食事も久しぶりにちゃんと取ることができましたし、しっかり眠ることもできましたもの。すべてレダ様のおかげですわ」
「……よかった。安心しました。えっと、じゃあ、なにが?」
一瞬、慌ててしまったレダだったが、当の本人であるヴァレリーが何事もないと言ってくれたので、安心して腰をソファーに下ろした。
「レダ」
「はい」
「単刀直入に聞こう。……ヴァレリーをどう思う?」
「……はい? 今、なんて」
「だから、だ。ヴァレリーをどう思っているのか聞いているんだ」
質問の意図がよくわからなかったが、レダは戸惑いながら答えることにした。
「えっと、美人といいますか、かわいらしいお方だと思いますけど」
「まぁ! レダ様ったらお上手ですわ」
「……ふむ。そう言ってくれるか。つまり、まんざらでもないということだな」
レダの返答に兄妹が満足そうに頷く。
「お兄様。まだ肝心なことを言っていませんのに結論を出すのは早すぎますわ」
「そうだったな。すまない」
この兄妹はなにを言っているのだ、と思わず首を傾げてしまう。
同時に、今になって本人を目の前に美人だかわいいだなどと言ったことに恥ずかしさを覚えてしまった。
「実を言うとな、私は妹を治すためならなんでもするつもりでいた。私自身、思い詰めていたのだろう。知り合いを通じて、王都の治癒士や薬師たちに――妹を治した者を夫として迎える、と言っていたんだが」
(あ、すごく嫌な予感がする)
口にこそしなかったが、その嫌な予感は当たるだろう。
最近のレダは、なにかとトラブルの女神に愛されているのだから。
「あの、ティーダ様、まさかとは思いますけど……ヴァレリー様を治療した俺を夫になんてことはありませんよね。あはははははは」
「ふははははは、そのまさかだ! 君が望みさえすれば、ヴァレリーの夫として我が一族に迎えよう!」
「はぁあああああああああっ!?」
想像通りの展開に、領主の前にも関わらずレダは絶叫を上げたのだった。




