79「二回目の結界術共有」①
ミナがエンジーの両手を強く握りしめた。
「よ、よろしくお願いします、ミナ先輩」
「うん。頑張ろうね、エンジー」
緊張気味のエンジーに対し、余裕のあるミナがにこやかな表情を浮かべる。
ミナの落ち着きのある表情が、エンジーの肩から緊張を抜いていった。
くるり、とミナがレダを見てはにかむ。
「おとうさんっ、見ていてね!」
「ウン、ミテイルヨ! ヨーク、ミテイルヨ!」
「うん!」
唇を噛んだままのレダが無理やり作った笑顔のまま手を振る。
ミナのやる気が大きくなった気がした。
「パパったらエンジーに嫉妬しちゃってぇ」
「イヤダナ、嫉妬ナンテシテイナイヨォ?」
「めっちゃ無理してるじゃん」
ルナがケラケラと笑ったが、レダ的には笑い事ではないのだ。
「それでは、始めましょう。ミナちゃん、レダくんにしたようにエンジーを通じて結界術を使ってください。もし必要があれば、エンジーの魔力を使ってくれても構いませんよ」
「――はいっ」
(――え?)
レダは耳を疑った。
――今、ウィルソンはなんと言った?
(エンジーの魔力を使って結界術を使っても構わないと言ったよ、ね? ミナは言われたことに対して素直に返事をしただけなんだろうけど、よく考えると、普通、そんなことできない、はずだ――よね?)
魔術を齧ったレダの知識が確かであれば、他人の魔力を使用することなどできない。
先ほどのレダを介したミナが使った結界術も、改めて考えればおかしいことだらけだ。
(あれ? もしかして、俺がちゃんと知らなかっただけで、誰かの魔力を使って魔術ってつかえるのかな? でも、そうじゃないとおかしいよね。うーん)
疑問を抱くも、実際、先ほどのミナはレダの魔力も使用して結界術を使った。
その結果、レダは結界術を習得した。
自分の知識が誤っているのだと自覚し、余計なことを考えたが口にしなくてよかったと思った。
「――では、お願いします」
「はい!」
「はいっ!」
ミナの身体から魔力が発せられた。
その魔力は、はっきりと視認できるほど強く大きい。
幼い子の成長は早いというが、先ほどの魔力よりも大きく成長していた。
これにはレダも、娘の成長に感動すればいいのか、驚けばいのか、なんだが、感動することにした。
魔力が回る。廻る。周る。巡る。
ミナからエンジーへ、エンジーからミナへ。
まるで魔力を交換しているように、魔力が循環していく。
次第に、魔力が収まっていった。
そして、変わった。
ミナの魔力が消え、エンジーの魔力が強くなる。
彼も元から大きな魔力を持っていたが、さらに大きく、大きく、大きくなっていく。
だが、エンジーが己の魔力を操作していないことは確かだ。
ミナは気づいていないが、エンジーは口から涎を、鼻から血を、瞳から涙まで流している。
彼が何を想い、何を感じているのかわからないが、レダの備わる「お父さんセンサー」が振り切れている。
――よろしくないことである、と。
しかし、邪魔はできない。
ルナに腕と服を思い切り掴まれていることもそうだが、これはミナにとっても重要な経験である。そして、エンジーにも。
視界の隅で、ウィルソンがシスターに何かを指示して、シスターが走ってどこかに行く姿があったが、気にならなかった。
永遠に続くと思われた魔力の循環が止まる。
ゆっくりと結界が現れ、大きく広がっていった。
金色の粒子が混ざった青い膜は、前回よりも強固なものになっていると見てわかるほどだった。
「――もう、結構ですよ、ミナちゃん。素晴らしい結界術でした」
ウィルソンのよく通る声に、ミナが結界を消した。
同時に、エンジーがガクガクと膝を振るわせてその場に倒れた。
反射的にミナの手を離したのは見事だが、仰向けに倒れたエンジーの顔は――なぜか恍惚としていた。




