70「結界の伝授」②
――結界術。
それは王都をはじめ都市をモンスターなどの敵意から守るための魔術。
この国では、王都に厳重な結界を張り、王宮、教会本部にも個々で結界を施している。
魔術が繁栄していた時代は、個人にも結界を張っていたようだが、残念ながら現代の魔術師にそこまでの技術はない。
また、結界術は魔術として単純に使えるものではなく、魔石を媒体に使用することで強固な結界を張ることができると言われている。魔石の魔力が尽きるまで、結界が維持され続けるのだ。
ただし、現代において結界術は一部の魔術師しか使えない門外不出とされており、厳重に管理されていると聞いている。
「――よろしいの、ですか?」
先日は、酒を飲んでいたこともあり簡単に流してしまったが、素面な状態で考えれば大変なことだ。
希少性ならば、回復魔術よりも上だ。
「結界術は、門外不出だと伺っているんですけど」
「いえ、それは違います。結界術を使える者は教会か王宮の管理下にあるのでそう思われているようですが、素質がなければ使えないだけですので門外不出というわけではありません。誤解されているのは、使い手が少ないことと、その使い手を我々が囲い込んでいるからでしょう」
「そ、そうでしたか」
それはそれで、おいそれと教えてもらっていいものかどうか悩ましい。
もしかして、自分も教会か王宮の紐付きになるのだろうかと考えてしまうが、特にデメリットは感じなかった。
もともと治癒士として本格的に活動を始めた時から、何かしら誰かと繋がりができることは覚悟していた。
レダにとって、その繋がりがアムルスの人々であり、ローデンヴァルト辺境伯であった。
しかし、現在は、王女アストリットを妻にして、聖女ディアンヌとも交流があるのだから、王宮と教会と関係が深まっても、特別問題を感じない。
問題はミナだ。
ミナも非公式だが聖女の娘であり、レダを介して王家とも繋がっていくのだろう。
そこに結界術が加わった時にどうなるのかはっきりわからない。
わからないということが、怖かった。
「――あまり心配せずとも良いと思います」
感情が表に出てしまっていたのだろう。
ウィルソンが穏やか声で、安心させるように言ってくれた。
「確かに結界術を使えるようになったことで、肩書きは増えるかもしれません。面倒なことも増えるかもしれませんが、国が、教会が、辺境伯が守るでしょう。結界術のせいで未来の選択肢が少なくなることも、閉ざされてしまうことなどもありませんよ」
「……そうであれば、ほっとします」
「気持ちはわかります。ですが、信じていただきたい。そもそもレダくんたちに何か不利が起きると知っていながら結界術を授けることなど絶対にしません。まだ出会って日が浅いですが、そこだけは信じてください」
「もちろんです。ウィルソンさんのことは、はい、家族として信じさせてもらいます」
レダがウィルソンを「家族」と言ったことに、彼は一瞬だけ驚くも、笑みを深めた。
「――どうもありがとうございます」




