68「家族の時間」
「それで、エンジーったらね、やっぱり昔からお野菜が苦手なんだって。ミランダおばさんが苦手なお野菜を細かくしてスープに混ぜて飲ませたみたいなの」
「へ、へぇ」
ミナはミランダ伯爵夫人から聞いたエンジーの話を楽しそうに話していた。
娘の顔は、一輪の花のような笑顔だった。
だが、その内容がエンジー一色であることが、レダとして複雑だ。
一緒の部屋で話を聞いているルナとヒルダも苦笑している。しかし、どこか微笑ましそうだった。
(…………ずっと気づかないようにしていたけど、も、もももももももももももしかして、ミナはエンジーのことががががががががが)
おかしい。
身体が震える。
動悸がおかしい。
レダは自身に回復魔法をかけてみるが、何も変わらない。
もしかしたら、このまま死んでしまうのではないかと不安になった。
「でもでも、エンジーはちょっと変わったよね」
「そう、だね」
「最初は、お父さんに会う前の私みたいだったかな」
「――っ」
レダはミナと出会った日のことを思い出す。
寒い日の夜に、震えていた細く痩せていた。
鮮明に思い出せる当時と比べると、すっかり元気になったと涙が出そうになった。
「エンジーは前の私……とはちょっと違うと思うけど……どこか似ているかなって。だから、なんか放って置けないの」
「……ミナ。優しい子だね。お父さん、誇りに思うよ」
よくよく考えれば、まだミナには恋は早いのだろう。
エンジーのことを気になっていたのかもしれないが、恋愛というよりも、かつての自分と重ねてしまったことが一番の理由だろうとレダは考えた。
ミナの隣でルナが「恋愛面じゃないといいわねぇ」と口パクしているが、恋愛面ではないと信じている。
「それにね! 私はエンジーの姉弟子だから! お姉ちゃんだから!」
不思議なことに、ミナは「姉弟子」と「姉」にこだわりがあるように思えた。
家族の中で末っ子であるため、お姉ちゃんになりたいのだろうかと考える。
「ふむ。ミナは姉弟子と言うがルルウッドたちにはふごふご」
「はーい、ヒルデは余計なこと言わないのぉ。私の可愛い妹が混乱したらどうするのぉ」
「うん?」
ヒルデがぽろっと言いかけるも、ルナが素早く彼女の口に手を当てて言葉を遮った。
ミナは不思議そうな顔をしているが、レダは心臓がばくばくしている。
その話題には触れたくない。
本能がそう言っていた。
「さ、さてと、エンジーのことはさておくとして! まだまだ王都でやることはあるから、今日もしっかり休むんだよ。陛下とご挨拶しなければいけないし、できれば観光もしたいな。それに、昔の知り合いにも挨拶をしたいんだけど……うーん、難しいかな」
「そうよねぇ。パパの知り合いとか会ってみたいけど、一応ぉ、あたしたちってお忍びでしょう? 観光は難しいじゃないかしらぁ」
「ふっ、甘いな、レダ、ルナ。隠れてこっそり行けばいい」
「……さすがに良い大人が教会に迷惑をかけてそれをしちゃうと恥ずかしいというか、怒られちゃうというか」
三十を過ぎた良い大人が、教会を抜け出して観光してしまうのは、ちょっと父親としてできないなぁ、と苦笑するレダだった。




