67「現実逃避?」
「はははは、そうでしたか。いや、失礼をしました。才女レイチェル殿を妻候補だとルナ様がご紹介くださったので、私はてっきり……」
「……誤解が解けて何よりです」
なんとかレイチェルが妻になるわけではないと教皇ウィルソンに納得してもらい、レダは安堵していた。
昨晩、彼の娘同然である聖女ディアンヌを妻にどうだろうかという話をしていながら、次の日に別の女性を連れてくるとは、控えめに言って印象が悪い。いや、悪すぎる。
「夕食の後で構いませんので、いくつかお話ししたいことがあるのですが、構わないでしょうか?」
「もちろんです」
何かあったのだろうか、と思うが、ウィルソンが後でと言っているのだから、今聞くことではないのだろう。
「それでは夕食後に。まだ少し夕食までお時間があるので、ご家族でゆるりとお過ごしください」
「ありがとうございます」
ウィルソンはそう言い残して去っていった。
レダは、ふう、と息を吐いた。
王都に来てからまだ二日だが、緊張する時間が多い。
後日、王とも会わなければならないことを考えると、少し胃が痛くなる。
ローデンヴァルト辺境伯をはじめ、貴族とは思えない気さくな人たちだから良いが、レダの知る貴族とは違うので戸惑いも大きい。
「お父さん、ご飯までお部屋でゆっくりしていいって!」
「うん。今、俺も言われたよ」
「お部屋に行こう。私ね、ミランダおばさんとたくさんエンジーのこと話したんだ。だからパパにも教えてあげたいなって」
「…………ふぅん、エンジーのことをねぇ」
ルルウッドの母ミランダ・レイニー伯爵夫人はミナとエンジーに関して何か思うことでもあるようだ。
「うん! たくさんのこと聞いたんだ!」
「それはよかったね。お父さんもぜひ教えて欲しいなぁ」
一体、どんなことを聞いたのだろうか。
おそらく、ミランダはミナがエンジーの良き姉気分として、良き姉弟子として振る舞っていることを微笑ましく思ったのか、いや、頼りにしたのか。
おそらくそのくらいだろう。
そうに決まっている。
「……パパぁ、そろそろ現実逃避はやめた方がいいと思うんだけどぉ」
「往生際が悪いな、レダよ」
ルナとヒルデが諦めの悪いレダに苦笑している。
「え? まさか、エンジーくんはミナ様と……それってロ……いえ、なんでもありません」
そして、レイチェルは何やら誤解をしたようで、ちょっと引いた顔をしていた。




