66「疑問と誤解」
教会への帰路。
レダは、なんとなく女性陣と同じ馬車では気まずいと思ったので、ルルウッドとエンジーと一緒の馬車に乗ることにした。
たまには男同士の話をするのも良いと思い、他愛ない話をした。
馬車の窓から見た店を指さして、あそこの店の菓子が美味しい、あそこの店の料理が美味しい、あそこの武器屋のおじさんは気に入った相手でなければ売ってくれない、など三人が三人ともそれぞれの知っている王都の情報を口にして盛り上がった。
「しかし、レダ先生が十年ほどでしたか、王都にいらしたとお聞きしていますが、一度もお会いしたことはなかったですね」
「あ、僕もそれは思いました」
同じ王都で生活しながら、レダたちは出会うことはなかった。
十歳近く年齢が離れていたので、仕方がないと思う。
実際、レダと出会っているシュシュリーとレイチェルだけが幼少期に助けられただけであり、その後、今日まで再会することはなかった。
不思議であることが、貴族が一介の冒険者を探して見つけられなかったことだ。
「そうだね。住まいはちょっと治安の悪いところにあったけど、冒険者ギルドは王都の中心部にあるし……でも、王都の住む人の人数を考えると無理もないかな」
王都には暮らしている人々以上に出入りする人間の数が多い。
冒険者、商人、何かしらの理由がある人々が毎日行き来しているのだ。
レダも王都を生活拠点にしていたが、冒険者ということで各地で依頼を受けていたのだから、年齢の離れたルルウッドたちと一切面識がないのは仕方がないことだと思う。
しかし、ルルウッドは不思議そうな顔をして、顎に手を当てていた。
「私が治癒師を目指すまでふらふらしていたことはご存知だと思いますが」
「あ、うん」
「その時に、冒険者と親しくしていた時期があり、冒険者ギルドにも出入りしていたんですよね。だというのに、私はレダ先生が所属していた冒険者パーティー漆黒の狼の名前さえ知らなかったんです」
「でも、ほら、冒険者の数だってすごく多いし。冒険者パーティーだってたくさんいます、よね?」
「そうだね。俺だって、知らない冒険者や、パーティーは多いよ」
何か引っ掛かるものでもあるのか、眉間に皺を寄せて考えていたルルウッドにエンジーが躊躇いながらも疑問の声をあげた。
レダは肯定した。
お世辞にも冒険者が全員、仲良くしたい人たちばかりではない。
中には、実力はあっても人間的に関わりたくない者もたくさんいた。これは商人なども同じだ。
特にレダは底辺冒険者だったので、結構馬鹿にされていた過去がある。
「いえ、すみません。つい余計なことを考えてしまいました。ははは、そんなことはないとわかっているのですが」
「えっと」
「すみません、私の悪いくせですね。何かに無理やり理由をつけて悪く考えてしまうんです」
「よくわからないけど、俺たちは出会うのは遅かったけど、今こうして一緒にいることができる。それが大事だと思うよ」
「そうですね。私もそう思います」
「僕もです!」
ルルウッドが何を気にしていたのか気になるが、そのことを問うことはしなかった。
本人がいいというのならそれでいい。
それに、馬車が教会に着いたので降りる時間だ。
「……これはこれは、レダ殿。さすがに驚きました。まさか伯爵家に足を運んだと思えば、奥方を増やすとは……感服です」
出迎えに来てくれたのだろう。
教皇ウィルソンがレダをすごい人でも見るような目で見ていた。
「あ」
すでにレイチェルが挨拶をしていたようだ。
「しかしながら、順番的にいろいろお話ししたいことがあるのですが、少しお時間を」
「誤解です!」
レイチェルが何をどう挨拶をしたのか、わからない。
ただ、教皇ウィルソンが誤解をしていることだけはわかったので、レダはつい叫んでしまった。




