60「ルナとレイチェル」①
「――ルナ!?」
「話は聞かせてもらったわよぉ!」
褐色の肌を持つ幼さを少し残したレダの妻ルナ・ディクソンは、にんまりした顔をして部屋の中に入ってきた。
「聞いていたの!?」
「ええ、割と最初の方から聞いていたわぁ! おもし……何やら込み入った感じだったから止めないで聞き耳……様子を見ていたのよぉ!」
「……残念だけど、本心が隠しきれていないかな」
「てへへ」
笑って誤魔化そうとしているが、ルナは結構前から聞いていたようだ。
気配を消すのがうまいルナだからこそ、できたことだろう。
レダもまさか聞き耳を立てていたとは思わなかったし、聞いていたのならもっと早くに部屋に入ってきて欲しかった。
「話を聞いていたのなら早いんだけど、実は――」
「大丈夫、大丈夫ぅ。ここからはぁ、あたしにまかせてぇ」
「…………本当に大丈夫?」
「ちょっと今の間ってなぁに? 可愛い奥さんを信用してよぉ」
「わかったよ。えっと、レイチェルさん、彼女は」
「――妻のルナ・ディクソンでーす!」
にんまり微笑んだ。
もしかして修羅場になるのか、とレダが胃の痛みを覚えて腹部を抑えた。
レイニー伯爵も、ルルウッドも、エンジーも青い顔をしている。
やはり男性陣は女性と女性の戦いは見たくないし、関わりたくないのだ。
対して、シュシュリーは「どうしましょう」と言いながら、どこか期待しているような表情に見えるのはきっとレダの気のせいではない。
「……妻、ですか」
「ええ、そうよぉ。パパの最初の妻! つーまー!」
レイチェルの顔から感情が消えた。
「もしかして、煽っていますか? レダ様に慕う私を、馬鹿にしているのでしょうか?」
「そんなことないわぁ。レイチェル、だっけ? あんた見る目があるわよぉ。パパは世界一の素敵な男だもの。惚れてしまうのは仕方がないわぁ」
「……そういっていただけると」
「――でもねぇ」
「――っ」
褒められて嬉しい反面、ルナの言葉がどこか危なっかしい。
レイチェルを挑発しているのではないかと思えてしまい、ヒヤヒヤしてしまう。
「まずはあたしたちに筋を通してもらわないとねぇ」
「……なるほど。まずは、奥様にお伺いを立てろ、ということですね」
レダが精一杯、違う違う、と首を横に振る。
そんなレダに、そっとクインがやめておきなさいと、目で訴えてくる。
すでにルナとレイチェルの間に火花が散っている。
不用意に間に割り込もうものなら大火傷してしまうだろう。
「誤解しないでほしいんだけどぉ、パパの魅力を理解する人って大歓迎よぉ! でーもぉ、可愛い奥さんはあたしだけじゃないしぃ、可愛い娘だっているしぃ、その辺のことを考えてちゃんとやっていけるって思わないんだったら、一過性の感情で突っ走らないでほしいわぁ」
笑みを浮かべたまま、ルナはレイチェルにそう言い放った。
 




