49「ルナの推測」
ミナとルナ、ヒルデはミランダ・レイニー伯爵夫人と共に談話室に移動して会話を弾ませていた。
(ミナったら夢中でパパとエンジーのことを話しちゃって。我が妹ながらかーわーいーいー!)
お茶を飲みながら、楽しくアムルスでの日々を話すミナをミランダ伯爵夫人は微笑ましそうに柔らかな表情を浮かべて頷いて聴いている。
まるで、娘に接するような雰囲気だ。
ヒルデもミナと同じく、アムルスでの日々を語る。やはりミランダは優しい顔をして興味深そうに耳を傾けている。
(単純に話を楽しんでいるのは間違いないんでしょうけどぉ。ミナのことを探っているっていのもあるわねぇ。ううん、探るじゃないわねぇ。どんなの子なのかって興味があるのかしらぁ)
「それでね、エンジーは街の人たちとも楽しく話せるようになったんだよ!」
「そうなのね」
「うむ。あいつも一人前だ」
「……エンジーのことは以前から知っているから、我が子のように思っているわ。人付き合いを怖がっていたあの子が、そう、そうなのね。立派になって、嬉しいわ」
幼いミナはさておくとして、年齢的には大人だが精神年齢は子供のヒルデもミランダに警戒心を抱いていない。
ルルウッドの母親だ。
確執があることは聞いていたが、その確執も誤解から始まったと聴いている。
ルルウッドが家に連れてくるくらいだ。悪人ではないと信じている。
だが、ルナは初対面の人間を無条件で信用するほど甘くない。少し前まで暗殺組織にいたこともあり、他人には厳しい。
(とか考えてもぉ。この人は、ミナとエンジーの関係が気になるんでしょうけどねぇ)
エンジーが実家と不仲であることは知っている。
レイニー伯爵家がエンジーの現在の家族である。
そのため、彼への縁談の話がくることも無理がないだろう。
ミナには言っていないが、ローデンヴァルト辺境伯にもエンジーをはじめ治癒士たちの結婚相手を探していないか、と手紙がしょっちゅう届く。
これにはティーダも頭痛を覚えているようだ。
治癒士は引く手数多だ。
囲うことができれば良いことだし、結婚することで血縁者に治癒士が生まれる可能性だってある。
治癒士でなくとも魔力を持って生まれてくる可能性だってあるのだ。
貴族にとって、子供の結婚相手にこれ以上の物件はないだろう。
また治癒士にとっても、守ってくれる存在は貴重だ。
後ろ盾がなく、使い潰されてしまう治癒士がいないわけではない。
妻や夫が貴族で、家族として治癒士を守ってくれるのであれば、これ以上ない心強い関係になるだろう。
(この人は、エンジーに縁談があると言った時のミナの反応を見て確信したに違いないわ。ミナの淡い気持ちに気づいていないのは本人とエンジーだけ。パパは全力で気づかないふりをしているけれどぉ)
今のミナは貴族ではない。
ミナ・ディクソンという平民だ。
エンジーを守る力があるかと問われたら、年齢的な意味を含めてないだろう。
しかし、父親レダ・ディクソンがいて、彼の妻には王女アストリット、辺境伯の妹ヴァレリーがいる。辺境伯ティーダからの信頼も厚く、王子ウェルハルトとも友好的な関係を気づいている。昨晩は、教皇ウィルソンと一対一で飲んだほどだ。家族には勇者ナオミ、一流冒険者テックスもいる。
交友関係がヤバすぎる。
下手な貴族よりもよほど後ろ盾になるだろう。
(ただぁ、そういうことを抜きにしてミナのことを見ている気がするのよねぇ)
これはルナの女の勘だ。
そして、もうひとつ。
(間違いなくパパは苦労するんだろうなぁ。ふふっ、慰めてあーげよっと)




