46「エンジーを探す実家」③
「――それは、あまりにも……」
レダは反射的に声を上げてしまい、慌てて口を閉じる。
閉じなければ、悪い言葉を吐き出してしまいそうだった。
エンジーの母マーゴットの考え方がまったくわからないと言ったら嘘になる。
彼女は息子を応援している。それは間違いない。
その上で、治癒士を続けるならば、自分のもとでやればいいと考えている。
それもわかる。
だが、前提として、マーゴットをはじめとしたライリート男爵家の面々は、エンジーを利用した過去がある。
そのことでエンジーが心を痛め、傷つき、家を出ていくきっかけとなったのだ。
戻ってくればよいと思うのは親心だろう。
しかし、エンジーにしたことを忘れているのか、なかったことにしているのか、それとも何も思うことはないのか、あまりにも無体な言葉だ。
彼女以外の家族の反応は反省が伝わる。しかし、マーゴットはエンジーを利用したことについて何をどう思っているのかまるでわからない。
(いや、どちらにせよあまりにも勝手すぎる。伯爵が言ったように、本当に人の心がわからないのかもしれない)
自己中心とは違うのだろう。
エンジーに対して、応援する親心があるのは話を聞く限り間違いない。
本当に自己中心であれば、もっと好き勝手にする。他人など本当に思いやることはしない。いや、違う。他人のことなど気にさえしないのだ。
冒険者時代にそういう人間を見てきた。
レダ自身も酷い目にあったことはある。
「レダ殿の言いたいことはわかる。親として、エンジーの家族として、私はレダ殿と同じことを思っているはずだ。ただ、困ったことに、マーゴットはエンジーを連れ戻そうとしている。さすが商売人というべきか、情報が正確で行動も早い。エンジーがアムルスにいることを把握して、冒険者を雇った」
「――っ」
息を呑んだのはエンジーだ。
サムも慌てる。
「それでは、アムルスに危険が」
「いや、手はすでに打ってある。陛下と教皇様の御許可を得て、エンジーが王都にいるとマーゴットに情報を与えた。今頃、王都の中を探しているだろう」
「……よかった、のですか?」
エンジーが力なくレイニー伯爵に尋ねた。
彼はもちろん、レダたちが王都にいることは秘密だ。
いずれ知られるだろうが、それまで厄介ごとが起きぬよう知らせないようにしていたのだ。
「問題ないと御許可をいただいた。なに、そのあたりは腹黒い貴族たちの戦いだ。エンジーはもちろん、レダ殿たちにもご迷惑をかけぬつもりだ」
「……母が、すみません」
「謝ることはない、エンジー。何度も言うが君は家族なのだ。家族を守ることは、当たり前のことなのだから」
「……はい。ありがとうございます」
レダとルルウッドがエンジーの肩を励ますように叩いた。
エンジーは浮かべていた涙を流した。




