45「エンジーを探す実家」②
「今になってなぜですか!?」
立ち上がり声を荒らげたのは、エンジーではなくルルウッドだった。
「ライリート男爵家はエンジーをずっと探していなかったではありませんか!」
「探してはいた。私が邪魔をしていたのだよ」
「それでも」
「ルルウッド、落ち着きなさい。お前が取り乱すとエンジーとレダ殿も困る」
父親に嗜められ、ルルウッドは大きく深呼吸すると、椅子に戻る。
「失礼しました」
小さく謝罪をするルルウッドを責めることはできない。
ずっと一緒に暮らしていたエンジーの事情はレダよりも良く知っているはずだ。
だからこそ、いつも冷静なルルウッドが感情的になってしまったのだろう。
「ざっと、エンジーの実家ライリート家について説明しよう」
「お願いします」
「ライリート男爵家は、成り上がりの家だ。エンジーを前にいうことではないが、すまない」
「い、いいえ、事実ですから」
気を使うよりははっきり言われたほうがいいのだろう。
エンジーは嫌だとは思っていないようだ。
「家の歴史は浅いが、エンジーを治癒士としての才能を利用して貴族たちと縁を結び、男爵家でありながらなかなかの権力を持っている。正直、争うのは面倒な家だな」
レダは苦い顔をした。
エンジーが治癒士としての才能を利用されていたことは知っている。
家族に、友人に、いいように使われていたと知った時の彼の心中は察するに余りある。
「今も商家を営みながら金貸しもしている。特に、エンジーの母親マーゴットは商才があり、商家を大きくし、貴族たちとも縁を作るという才女だ。しかし、人の心には疎い女性でもある。そんなマーゴットが現在のライリート男爵家を仕切っていると言っても過言ではない」
「……母が」
「エンジーにはあえて実家の情報は与えていなかった」
「はい」
「実を言うと、お父上やご兄弟はエンジーにしたことを反省している。自由に生きろとも」
「――っ」
「彼らの言い分からすると、利用したというよりも才能を活かしたらしい。幼いエンジーに詳細を話さなかったことは、仕方がないことなのかもしれない。しかし、金と権力に目が眩み利用しすぎた。ただ、家族としての愛情はあった。それだけは誤解しないでやってほしい」
「…………はい」
なかなか受け入れるのは難しいだろう。
エンジーが拳を力一杯握っているのがわかる。
心中は複雑なはずだ。
「ただ、マーゴットは反省はしていない。いや、違うな。理解していないのだよ」
「……どういう意味でしょうか?」
エンジーではなく、レダが尋ねる。
「エンジーは治癒士の才能を利用されて辛い思いをした。人と接することも苦手になった。しかし、治癒士からは逃げなかった。素晴らしいことだ。だが、マーゴットはエンジーの決意を気持ちを理解ができていない。悪意があるわけではないという前置きをさせてもらうが、治癒士を続けるのであればわざわざ家から出る必要がなかったではないかと本気で思っているのだよ」
「それは、なんといいますか」
愛情があっても利用されたことには変わりがない。
まだ子供だったエンジーが家族と距離を置こうと考えたのは自然のことだ。
貴族の少年が家を出て暮らすことには覚悟と決意が必要だっただろう。
結果的に、レイニー伯爵家で世話になることができたが、違った未来だってあったはずだ。
「マーゴットは、エンジーがどんな職業に就こうとかまわないと思っていた。家を出たのであれば、治癒士に興味がないのだと。しかし、治癒士となりレダ殿と共に働いている。エンジーの名は王とにも伝わっている。だからこそ、彼女はわからない。なぜ実家できることを他所でするのか、と」




