44「エンジーを探す実家」①
「レダ殿、子供というのはいつか巣立つのだ。ルルウッドもそのうち私の手元から羽ばたいて行く。その日が来るのは親として嬉しくあると同時に寂しく切ない」
「……ううっ、まだお父さん歴一年目なのに、もっとこう、反抗期とかいろいろなことを経験してからお嫁に出したかった」
レダが顔を覆って泣き始める。
なぜかミナが嫁にいく話に飛躍している。
いずれ嫁に行く日は来るだろうが今ではない。
「レダ殿、発想を逆にするのだ」
クインが親指を立てる。
「婿を貰えば、御息女はお嫁にいかずにすむ!」
「その手がありましたか!」
レダは感銘を受けたように、瞳を輝かせるとクインとがっしり手を握り合う。
その発想はなかった。
いずれ結婚するだろうが、離れずに済むかもしれない。
「……レダ先生、父上の戯言に使わずとも……いえ、本当に、お考えを改めてください。子供からすると大事に思われているのは嬉しいことですが、過度に構うと嫌われますよ! いえ、ミナ様に限ってそんなことはないと思いますが、なんでもほどほどのほうが」
苦笑していたルルウッドだったが、レダの目が本気だったので慌てた。
クインがレダを揶揄っているのか、真面目に言っているのか不明だが、このままではレダが暴走してしまう。
父のせいでレダの評判が悪くなるのは息子として弟子として望んでいない。
ルルウッドはレダを正気に戻すために必死になった。
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「ごめんね、ちょっと取り乱しちゃった」
ちょっとではなく、かなり取り乱していたが、レダは笑って謝罪し誤魔化すことにした。
「いえ、正気に戻ってくださりほっとしています。父の戯言はほどほどに受け取ってください」
「はははは、気をつけるよ」
ルルウッドは父親に対して少々辛口だが、親子仲は良好であることは見て取れる。
仲がいいからこそ、言いたいことが言える。
貴族の家では、子は親に絶対服従という家もあるので、レイニー伯爵家は暖かい家族なのだろう。
「さて、レダ殿、エンジー。女性たちがいない間に話しておきたいことがある」
「話、ですか?」
レダが疑問符を浮かべ、エンジーが少しだけ顔をこわばらせた。
「レダ殿は、エンジーの家に関しては聞いているかな?」
「少しだけですが、その、家族と距離を取っていると」
エンジーの顔を見ながら、レダが答える。
あまり口に出していいことではないと思うが、エンジーは大丈夫だと言わんばかりに頷いてくれた。
「エンジー、いいかな?」
「もちろんです」
レイニー伯爵がエンジーを伺い、許可をもらうと話し始める。
「エンジーの実家ライリート男爵家が少し頭の痛いことになっている」
「……ライリート男爵家、ですか」
「えっと、僕は、エンジー・ライリートといいます。ただ、できれば、今までのようにただのエンジーとして扱って欲しいと思っています」
「それは、うん、構わないよ。しかし、クイン様、頭が痛いことになっているとはどういうことでしょうか?」
クインは咳払いをすると、少し声を低くした。
「ライリート男爵家がエンジーを血眼になって探している」




