43「レイニー伯爵夫妻の察し」①
「すまない、レダ殿。皆様。つい、家族のことになると感情的になってしまう」
「いいえ、自然なことでだと思います。お気になさらないでください」
客人を前にしていることを思い出したクインが咳払いをする。
レダたちが気にするはずがない。
レイニー伯爵夫妻に負けず、家族を大事に思っているのだ。
「しかし、レダ殿は新婚だと聞く」
「はい。ありがたいことに」
「実に羨ましいではないか。私も若い頃はブイブイ」
「あなた?」
「言わせようと思ったことがないと言ったら嘘になるが、素敵な婚約者がいたらからな。目移りするようなことはなかったよ。はっはっは!」
「まあまあ、あなたったらお口がお上手だこと」
クインとミランダの力関係がよくわかった。
ルルウッドがため息をついたのが聞こえた。
「ルルウッドも見習ったらどうだ。そろそろ良い年なのに、浮ついた話がまるでない」
「……父上、私は真面目に治癒士として取り組んでいますので、浮つくわけにはいかないのです」
「お前は頭が硬い。人を愛し、守りたいと思うからこそ、頑張れるのではないかな?」
ルルウッドは、父に口では勝てないとわかっているようで、両手をあげて降参のポーズをとった。
「そんなルルウッドの父からの贈り物を用意してある。あとで書斎にきなさい。山のような結婚の申し込みがあるぞ!」
「……レダ先生、一刻も早く帰りましょう!」
「逃さんぞ! そろそろ身を固めてくれなければ困る! 主に、私が各方面から令嬢を紹介されてばかりで困るのだ!」
「断ってください」
「断って断って断った結果、山のような申し込みで済んでいるのだ。貴族であり治癒士となれば、放っておかれまい。おお、そうだ。レダ殿、ぜひ君にも……いえ、なんでもないです、ごめんなさい」
レダにも女性を紹介しようとしたクインだったが、焼き菓子を食べていたルナとヒルデに睨まれてしょんぼりしてしまう。
本人も、本気で進めようとはしていないのだろう。
「エンジーにも見合いの話が来ているが、どうする?」
「ぼ、僕は遠慮しておきます。結婚とか、まだ早いです!」
「そうか? おや、おやおやおやぁ!?」
エンジーにも見合いの話が来ているようだ。
それはいい。
目ざとい貴族が動くのは自然なことだ。
それよりも、だ。
エンジーにクインが見合いの話を振った瞬間、ミナがあからさまに不機嫌な顔をした。
その顔をレダははっきりと見てしまった。
不思議と、動悸が早くなる。
クインもミナの変化を見ていたようで、顔をにんまりさせていた。
「まあまあ、ミナちゃん。可愛いわね。よかったら、別の部屋でおばさんと一緒に女子会をしましょう? ね、ルナちゃん、ヒルデちゃん?」
そして、ミランダもミナの反応を見逃してはいなかったようで、良いことを知ったとばかりに微笑んでいる。
「えっと、お父さん?」
「み、ミランダ様にご迷惑をおかけしないように、ね」
「――うん!」
「ルナ、ヒルデ、本当にあとは頼んだ。くれぐれも、よくわからないけど、くれぐれも頼む」
「……もうパパったらぁ。でも、いいわぁ。おもしろうそうだからまっかせて!」
「よくわからんが、任せておけ!」
ルナにレダは必死に頼む。
自分でも何を頼んでいるのかよくわかっていないレダだが、とにかくお願いするしかない。
「あー、レダ殿。私のせいでもあるが、その、なんだ。父親の宿命というか、なんというか。乗り越えなければいけない壁はすぐそこにあると言うことだ」
「やめてください! 俺、まだお父さんになったばかりなのに!」
女性たちが部屋から出ると、クインが慰めようとレダに近づき肩を叩いた。
「えっと?」
エンジーは、この展開がよくわからないようで首を傾げ、隣でルルウッドがため息をついていた。