37「シュシュリーの姉」①
――王都。アンバー子爵家。
シュシュリー・アンバーは、久しぶりの実家に戻ってきてほっと肩の力を抜いていた。
レダ・ディクソンの弟子のひとりとして、貴族ではなくひとりの治癒士として働く日々は充実しているし、アムルスでの日常も楽しい。
それでも、やはり生まれ育った実家に帰ってくると、安心感がある。
「お父様、お母様、シュシュリー、ただいま帰りました!」
桃色のショートカットを揺らし、シュシュリーは両親に挨拶をする。
「シュシュリー、かわいい我が自慢の娘よ。立派な治癒士として働いていると聞いている」
「あなたは私たちの誇りですわ」
「ありがとうございます!」
茶色い髪を整え、髭を生やした父と、桃色の髪を三つ編みに結う母と顔を合わせたのは半年ぶりだ。
お互いに元気でやっていることを確認すると、口元が綻んでしまう。
シュシュリーを幼い頃から見守ってくれている執事やメイドたちも、彼女の帰還を喜んで、涙を流す者もいる。
「聞けば、大変な経験をしたそうだな」
「――はい」
「詳細を訪ねていいのかわからぬが、シュシュリーたちが問題を解決したと聞いている」
「正確に言うならば、レダ先生と勇者ナオミ様とエンジーが命を掛けて頑張ってくださった結果です。私は少しお手伝いをしただけです」
「……陛下から直接お褒めの言葉をいただいている。あまり謙遜せずともよい。娘が遠い地で戦っていることを知らず、変わらぬ日々を過ごしていたことを恥ずかしく思う」
「そんなことはありません。私は、治癒士として当然のことをしただけです」
「……とても良い目をしている。良き師、良き友と出会えたのだな」
「はい。とても充実しています」
両親はシュシュリーを力強く抱きしめた。
「――無事に帰ってきてくれてよかった」
「おかえりなさい、シュシュリー」
辺境のアムルスに年頃の娘を送り出す選択は、難しかっただろう。
シュシュリーに治癒士の才があったとしても、親としては結婚して幸せな家庭を築いてもらいたいと思うものだ。
だが、シュシュリーは自らの意思で治癒士の道を、レダ・ディクソンの弟子になる道を選んだのだ。
家族が反対したことは言うまでもない。
それでも、シュシュリーは自らの意思を通した。
――幼い頃、一度だけだが、助けてもらったあの日のことを鮮明に覚えていたから。
「ところで、手紙では何度か聞いたが……シュシュリーがお世話になっている方が、レダ・ディクソン殿で間違いないのだな」
「昔、あなたたちを暴漢から助けてくださり、傷まで癒してくれた方ですね」
「――はい。間違いありません」
シュシュリーには、治癒士を目指す以外にも目的があった。
それは、レダ・ディクソンを探すこと。
当時、治癒士ではないと言ったレダと、治癒士レダが同一人物か確認するという理由もあった。
――見つけた。
レダ・ディクソン。
シュシュリーを助け、姉を助けてくれた大恩人。
尊敬する師匠。
――そして、姉の想い人。




