36「お願い」②
「……ルルウッドの家ってご実家ってことでいいのかな?」
「もちろんです。家族と手紙でやり取りしていましたが、ぜひ尊敬するレダ先生とご家族にご挨拶をしたいと言っていますので、特にご予定がなければいかがでしょうか?」
詳しく把握しているわけではないが、ルルウッドは貴族だ。
平民のレダがおいそれと行っていいものかと悩む。
アストリットとヴァレリーがいないので、貴族とどう会ってどう接すればいいのかマナーも不安だ。
「気持ちは嬉しいんだけど、俺は平民だし、マナーなども不安で」
「いえ、マナーなどは気にしないでください。むしろ、家族の方がレダ先生たちにご迷惑をおかけする可能性があるのですが……」
ルルウッドがどう説明すればいいのか悩むと、エンジーがフォローを入れた。
「ルルウッドの家族はとてもフレンドリーなんですよ。それこそ、貴族ってこんなに気安く接してもいいのと誤解してしまうほどです」
「……公私をきちんとわけているのですが、プライベートになると、本当に気さくなのです」
苦笑を漏らすルルウッドに、ルナとヒルデが手を挙げた。
「はい! 貴族の家にいきたいわぁ!」
「うむ! 王都の貴族は華やかな生活をしていると聞く。ぜひ見てみたいぞ!」
「……あの、決して華やかと言いますが、贅を尽くした生活をしているわけではないのです。どちらかと言うと、我が家は質素……とはいいませんが、必要のないものはいらないと考えているので、あまり期待されても」
「でも、とても良い方たちですよ。僕にもとても良くしてくれて……今の僕があるのは、ルルウッドや彼のご家族をはじめとした、優しい人たちのおかげなんです」
「……エンジー」
エンジーは家を出ている。さらに、人が苦手で気弱な性格だった。
そんなエンジーを快く受け入れていたルルウッドとその家族に、彼は本当に感謝しているようだ。
「喜んで伺わせていただくよ。別に貴族の方々に会いたくないわけじゃなくて、失礼があったら困ると心配しただけなんだ」
「ありがとうございます。――では、さっそく行きましょう」
嬉しそうな顔をしたルルウッドが、馬車を準備すると挨拶をして部屋から出ていく。
エンジーも「またあとで」と追いかけていった。
「……てっきり歩いていくのかと思った」
「そうねぇ。やっぱり育ちがいいというかぁ、貴族よねぇ」
貴族の移動は基本的に馬車だ。
よほど近くなければ、歩くことは限られている。
「……貴族とは面倒だな」
「近くなら走った方が速そうなのにね」
ヒルデとミナも、歩いていくつもりだったようだ。
「ははは、馬車を用意してくれるのなら遠慮なく乗らせてもらおう」
「そうねぇ。王都を馬車で移動なんて、贅沢だから楽しみましょう!」
「襲撃されても壁があるのはいいことだ!」
「……貴族様のお家、楽しみだなー」
ルナは遠慮なく、ヒルデは襲撃ありきで、ミナだけが純粋に楽しみにしてくれている。
レダは、ルルウッドの家族だから大丈夫だと思うが、やはり貴族に会うのは緊張するなと思いながらも、国王陛下や教皇と会っていることを思い出し、なんとかなる、と考えるのだった。




