33「教皇のお願い」③
「ごほん。ところで、ディアンヌのことなのですが。実は、父親代わりとして彼女の幸せも願っているのです。娘であるミナ様は無事に見つかり、レダ様はもちろん教会としても守りましょう。ならば、次はディアンヌも幸せになってほしい……そう思ってしまうのです」
「…………この人、さっきの話をなかったことにしてやり直してきたよ」
そう来るとは思わなかったため、さすがに面食らう。
「えー、あー、そのですね、みんな家族になっちゃいましょう! 完璧!」
「急に雑ですね!?」
今までのウィルソンとは思えない、ざっくりした話の進め具合。
レダとしては、どう反応していいのか悩む。
「――パパとしてはディアンヌにも幸せになってほしいんです。あの子は幼少期から聖女であるからといらぬ苦労をしてきました。その苦労をさせていたのは、他ならぬ教会ではあるのですが、だからこそ、幸せを願っているんです」
(父親代わりからついにパパになったな。……酔っているのかな?)
顔を見る限りに赤くはない。
呂律もしっかりしている。
一見すると酔っていないようには見えるが、人によって変な酔い方をする人もいるので確実ではない。
「ディアンヌの手紙には毎回レダ様のお名前が書かれています。これはもう好きでしょう、と思ってしまうんですよね」
「……そんな」
「わかります。レダ様は、女性に対して免疫がないそうですので、抵抗があるのでしょう。そこでメリットを少々」
「いえ、あの、女性をメリットデメリットで」
「――私が義理のパパになります」
(それのどこがメリットなのだろうか、と聞いちゃいけないんだよなぁ、きっと。あと絶対に酔っ払っているよね?)
「次に、義理のパパが教皇なので、教会の権力使いたい放題です」
「いやいや、それはさすがに駄目でしょう!」
「仮に、仮にですよ」
「仮でもバレたらいろいろまずいことをメリットみたいに言わないでください!」
「レダ様……バレなきゃなにも問題にはならないのです」
「うわ、こわ」
教会の権力は確かに凄まじいものがある。
特に貴族に対して、効果はある。
アムルスのような辺境は例外だが、王都のような都会ならばその効果は存分に発揮するだろう。
ただレダとしては仮に、教皇と縁ができても権力を振り翳すことはしない。そういうことは好きではないのだ。
「と、まあ、冗談をいろいろ言ってみましたが、ディアンヌのことを考えてあげてください。あの子は、ミナ様とレダ様の関係を壊したくないと思っています。今の家族の形を壊してしまい、ミナ様と自身の関係が変わるのではないかと怯えています」
「……はい」
「ですが、ディアンヌはミナ様の母親です。形だけではなく、ちゃんと母親になりたいはずです。一緒に暮らしたい。一緒に眠りたい。そう思うはずです」
「気持ちはわかります」
「ディアンヌのために結婚をしろというつもりはないのです。ただ、父親代わりとして、酒の勢いでお願いをしているだけですので……心の隅に置いていただけると嬉しいです」
「……はい」
「それに、レダ様は奥方が四人もいますので、ひとりふたり増えても構わないかなと思いまして」
「ちょっと!?」
「ははは、冗談です。ディアンヌのことお願いします。恋人になれ、妻にしろとは言いません。散々言いましたが、言いません。ですが、あの子は寂しがり屋なので……ミナ様の母親としてではなく、ディアンヌ個人として気にかけてくれると嬉しいです」
「……俺にとって、ディアンヌさんは家族です。寂しい思いはさせないように努力します」
「ありがとうございます。そのお言葉を聞けただけで、安心しました。どうか、これからもディアンヌをよろしくお願いします」
レダとウィルソンは、グラスを掲げた。
今日、最後の乾杯をした。




