31「教皇のお願い」①
「よろしい、のですか?」
モンスターを遠ざける結界の存在は知っている。
この王都にも張られていると聞く。
結界が、完全にモンスターを遠ざけるわけではないが、力が弱いモンスターなどは近づけなくなるのだ。
冒険者時代にちょっと聞いた話だと、結界を「異物」として捉え、近づきたくない。モンスターはそんな風に思うらしい。
いくつかの領地の街には、古くに張られた結界があるとされている。
アムルスにも結界は張られている。
その結界の価値は、金になどならない。
誰もが喉から手が出るほど欲するだろう。
「もちろんです。秘術などと言いましたが、教会では使える者には積極的に教えています。人々を救ってこそ、私たちですから。しかし、残念ですが、扱うには魔力が大きいこと、結界を作るために強い魔力が必要であることであるため、適合者が少ないのです」
「俺と、ミナとエンジーなら使えるということですか?」
「はい。レダ様はこうして向き合っているだけで強い魔力がわかります。おそらく、魔力量も強さも私以上でしょうね。先ほどお会いしたミナ様、エンジー様は潜在能力的には我々よりも上です。使えるようになるには時間は必要ですが、使えることは間違い無いでしょう」
大変なことだ。
治癒士であることでも、立場が大変なのに、希少な結界まで使えるようになってしまうと、どうなるのだろうか、と想像ができない。
「俺たちは対価として何を差し出せばいいのでしょうか?」
「ふふっ、面白いことを言いますね」
ウィルソンが柔らかく微笑む。
その顔には親しみが込められている気がした。
「私にとってディアンヌは娘同然。そんなディアンヌの娘であるミナ様は、孫のような存在です。ミナ様にとっての父親であれば、私にとっても家族同然。エンジー様も同じです。家族から対価をもらったりしませんよ」
好々爺としか思えない表情のウィルソンに、レダが警戒を浮かべようとして耐えた。
あまりにも都合が良い。
善意であるとしても、すでに善意はいただいている身だ。
これ以上のことをしてもらい、本当にいいのだろうか、と悩む。
「警戒していますね?」
「い、いえ」
「構いませんよ。私がレダ様の立場でも、この爺さん胡散臭いなと思います」
そんなことは言っていない、と返せる余裕はなかった。
「レダ様が今まで善意で多くの方を助けてきたことを知っています。助けられた者に教会関係者が、信者がいます。そのお礼……もあります。申し訳ない。私の話し方はどうも相手を警戒させてしまうようですね」
ウィルソンは表情も雰囲気も変えず、言葉を続けた。
「実を言うと、打算もあります」
「打算、ですか?」
「はい。私が言っていいものか今も悩んでいるのですが、あまり善意の押し売りで困らせてしまうのであれば、要望を言わせてもらおうかと思いますが、いいでしょうか?」
「もちろんです。どうぞ」
「では、ありがたく」
レダとしては、打算でもなんでも、要望を言ってもらった方が気が楽だ。
問題は、その要望に応えられるかどうか、であるが。
「単刀直入に申します。――ディアンヌと結婚していただくことは可能でしょうか?」
「ほにゅ?」
――変な声が出た。




