23「教皇と約束」
「レダ様、どうもありがとうございました。とても良い経験をさせていただきました」
災厄の獣が残した魔石を堪能したウィルソン教皇は、満足した顔をしてレダに礼を言った。
アイテムボックスに魔石をしまったレダは笑顔で応じる。
「喜んでいただけたようでよかったです。できれば、差し上げたいくらいですが」
「ははは。さすがにそれはまずいですよ。教会も必ずしも善人だけで構成されているわけではありませんからね。善人であっても、あれほどの魔石を見てしまうと欲が出てしまうでしょうね」
「そう、でしょうか」
「はい。おそらく、善人だからこそ、欲が出てしまうでしょう。例えば、魔石をなんらかの形で売って金を得たとします。その金でどれだけの人々が救えるか」
「――っ」
その発想はなかった。
金があれば、救える命はある。
綺麗ごとを言うつもりはない。
この世界では、命は金で買えるのだ。
実際、治癒士の治療が高額であったのだから。
「ですから、教会では魔石をお預かりできません。国王陛下ならば、魔石を有効活用してくださるでしょう」
「……しかし、魔石は死蔵されると思います」
「ここだけの話ですが、私は魔石の、特に貴重な魔石の加工方法を知っています。国王陛下にその方法をお伝えし、魔石を役立てていただきたいと思っています」
「…………教皇様、あなたはいったい」
ウェルハルトもティーダもまったくお手上げだった魔石の加工を知っているウィルソンに、レダは少し怖さを覚えた。
だが、ウィルソンはいたずらっ子のようにウインクする。
「教会の歴史は長いのです。それこそ、王国よりも、ずっとずっと。ですから、魔石の加工方法もこっそり伝わっているのですよ。もちろん、私や一部の人間しか知りませんがね」
「な、なるほど」
今日は何度驚いただろうか。
肉体的にも、精神的にも、すっかり参ってしまった。
エンジーなど静かだなと思っていたら、意識を半分ほど飛ばしているようだ。
「おっと、エンジー様はどうやら限界のようですね。お聞きしているかもしれませんが、本日からしばし教会で生活をしていただきたいと思います」
「ありがたいと思っているのですが、今日だけではなく、しばらくですか?」
「はい。護衛の方々を含めて、ご家族ごと、教会が守らせていただきます」
「……守るって、どう言う意味ですか? 災厄の獣は倒したんですけど」
戸惑うレダに、ウィルソンが少し申し訳なさそうな顔をしてから、言った。
「欲望に取り憑かれた人間からです」
「あー」
今さら、自分たちがそんなことに、とは言わない。
ウェルハルトも信頼できる護衛を準備するように言った。
やはりいつでも怖いのは人間なのかもしれない。
「レダ様たちは王都で人間の良い面と悪い面を見るかもしれません。ですが……いえ、それはまたその時にお話をしましょう」
「……はい」
「そうですね、もしよろしければ、あとでふたりだけでお話をしてくれませんか?」
「それは、はい。構いませんが」
「ありがとうございます。ただのウィルソンとして、あなたとお話ししたいことがあります。良い蒸留酒も用意しておきますので、またあとで」
教皇はそう言い残し、丁寧に礼をするとレダとエンジーの前から去っていった。
(つい返事をしちゃったけど、教皇様と一対一で話をするとか……緊張を通り越してお腹痛い!)
王都についたばかりだが、レダの受難は続きそうだった。




