17「教皇ウィルソンと」③
「……なんという力を秘めた魔石でしょうか。私も立場上、いくつか魔石を見る機会がありましたが、これほどの魔石は見たことがありません」
教皇ウィルソンの声は震えていた。
「……触れても構いませんか?」
「はい」
特に考えず返事をする。
教皇が震えるほどの魔石を前に、レダの思考もやや低下気味だ。
「素晴らしい……これが災厄の獣の魔石ですか」
うっとりした表情となった教皇は魔石に頬擦りをした。
え、とレダとエンジーが顔を見合わせる。
撫でることは想定していたが、まさか頬擦りするとは思ってもいなかった。
レダとしては、そんなことをする勇気はない。
「あ、あの、さすがに頬擦りは」
恐る恐る声をかけると、ウィルソンはハッとして魔石から離れると大きく咳払いをした。
「……失礼しました。二度とないチャンスについ」
「いいえ、余計なことを言ってしまったようで申し訳ないです。あまり触れていていいものかもわからないので」
「ふむ。確かにそういう疑問はありますね。しかし、見て触れてみたところ害になることはないでしょう」
「……そうなのでしょうか?」
「魔石によって所持者に害を与えるものがあるのは事実です。たまに魔剣とか呪われた剣などがあるでしょう。そういうものには大概、訳ありの魔石が素材となっていることが多いんですよ。モンスターたちの最後の恨み……なのでしょう」
「モンスターの恨みが魔石を通じて所有者に害を与えることがあるんですね」
「残念ながら、はい。モンスターにもモンスターなりに生きる理由がありますので、我々人間は敵でしょう。仲間を自身を殺されれば恨むでしょう。こればかりは仕方がないことです」
どちらも敵だと認識している以上、綺麗事は言えない。
モンスターは倒す。
モンスターも人間を餌にする。
永遠に関係は変わらない。
「だからこそ、不思議です。この魔石からは恨みを感じません。それどころか――」
改めてウィルソンが魔石に触れた。
「感謝の気持ちが伝わってきます」
「……感謝、ですか」
「死の間際に思うことがあったのかもしれませんね。その場に居合わせることはできませんでしたが、災厄の獣は災厄の獣なりに何か思うことがあったのでしょう」
全力で戦った。
レダは災厄の獣を憎いとは思っていない。
ただ、倒さなければ死んでしまうから必死に戦っただけだ。
家族を、友を、街を、守りたくてがむしゃらに戦っただけだった。
そのどこに感謝が宿るのだろうか。
「勝手な推測ですが……災厄の獣は知性が高いと伝わっています。そんな獣が長い時間を生きて、死んだ。もしかしたら、本当にもしかしたらですが――獣は死にたかったのかもしれません」
その答えはわからない。
わかることはない。
「レダ様は、獣の死の間際にお撫でになったと聞いています」
「はい。なぜか、そうしたかったんです」
「あなたの慈悲が、優しさが、災厄の獣に伝わったのかもしれませんね」
ウィルソンは優しい顔をして、魔石を撫でる。
そしてレダの手をそっと握った。
「こうして顔を合わせていれば、あなたが優しいことがわかります。その優しさに救われた者は間違いなく多かったはず。願わくば、災厄の獣もあなたの優しさに救われていれば、と思います」
「――もし、もしも、そうであれば、嬉しいです」




