14「教皇ウィルソン」②
「ウィルおじさん! 久しぶりなのだ!」
ナオミがレダの背後から飛び出し、ウィルソンに抱きついた。
ウィルソンは孫を出迎えた祖父のように破顔すると、ナオミを抱きしめる。
「これはこれはナオミ様。お元気そうで何よりです。災厄の獣と戦うという情報を耳にした時は心臓が口から飛び出ると思いましたが、見事勝利したようで本当に嬉しく……」
「レダたちのおかげなのだ!」
にこにこ笑顔でそんなことを言うナオミに、レダが心の中で悲鳴を上げた。
心なしか教皇の瞳が光った気がする。
「その話はあとでゆっくり聞かせてください」
「おう、なのだ!」
勇者であるゆえか、ナオミの性格のためか、教皇相手に気さくすぎてレダの胃がキリキリする。
「教皇様」
「聖女ディアンヌ様」
「長らく王都を開けてしまい申し訳ございません」
続いてディアンヌが教皇の前に立ち、頭を下げた。
「お気になさらずに。あなたはあなたにとって大事なことをするためにアムルスに向かったのです。お顔を見るに、良い結果となったのでしょう?」
「はい。ミナ」
「はい」
ディアンヌが手招きすると、ミナが駆け寄る。
娘の肩を抱き、ディアンヌが紹介をした。
「先ほど挨拶したばかりですが、わたくしのかわいい娘です」
「お顔が、幼い頃のあなたにそっくりです。今日は良い日ですね。災厄の獣を倒した勇者と英雄たちを招くだけではなく、聖女ディアンヌ様の娘にも会えました。――無論、皆様との出会いにも感謝しています」
教皇は心から歓迎している笑顔を浮かべ、恭しく礼をした。
レダたちも礼を返す。
「教皇殿、そろそろ上の方に。皆が待っているぞ」
すでに部屋の外にいたウェルハルトが扉を開いて顔を覗かせた。
「そうでしたね。申し訳ございません。年を取ると、つい話が長くなってしまいます」
苦笑したウィルソンが、扉を大きく開いた。
「どうぞ、皆がお待ちです」
「……皆さん、とは?」
「災厄の獣は誰もが知っていることではありますが、王都では限られた者たちしか知りません。大きな混乱を防ごうとしたためです。それゆえ、レダ・ディクソン様たちの英雄的活躍も国民のほとんどが知らないのです。――申し訳ございません」
「あ、いえ。謝罪は結構です。俺は、俺たちは、大切な家族とアムルスの人たちのために戦っただけです。言い方が悪くなってしまいますが、王都の人たちのことは、そのあまり考えていませんでした」
レダは偽りなく告げた。
レダたちの行動理由は家族を、友を、アムルスに住まう人たちを守ることだけだった。
アムルスが災厄の獣に蹂躙されることだけをとにかく防ごうとした。
王都を気にしている余裕なんて微塵もなかったのだ。
「それでもです。あなたたちが最前線で勇気を振り絞り戦った。そして、勝った。それが全てです。我々教会はあなたたちを心から尊敬し、感謝します。そして、味方であることをここに宣言します。――では、数は少なくともあなたたちの功績を祝いたいという者が礼拝堂に集まっています。さあ、どうぞ」




