13「教皇ウィルソン」①
門を潜り抜けると、真っ白な部屋だった。
門の大きさは人が二人並んで潜れるくらいの小さいものとなっている。
「……必ずしも門の大きさは同じじゃないんだね」
「その通りです。森の中なら大きなものでもいいでしょうが、街の中に隠すのであれば小さな方が好ましい。過去の人々はそう考えて門をお作りになったのでしょう」
聞き覚えのない声がした。
穏やかで、温かい。しかし、威厳のあるよく通る声だった。
潜った門を眺めていたレダは、王家の人間が通る門を潜ったことで気を抜いてしまっていた。
不意打ちの様に掛けられた声に驚き、振り返る。
「――ようこそ王都へ、レダ・ディクソン様」
立っていたのは、澄んだ瞳の初老の老人だった。
好々爺な笑みを浮かべ、聖職者の衣装に身を包んでいる。
胸にはロザリオが揺れていた。
「そして、ご家族もようこそ、王都へ。歓迎します」
落ち着いた声だ。
初老ながら背筋はぴんと伸びている。
「こんにちは! ミナ・ディクソンです!」
ミナが元気よく挨拶をする。
レダも慌てて、挨拶をした。
「お初にお目にかかります。レダ・ディクソンと申します。こちらは家族と友人たちです。お出迎えに、感謝します」
「これはこれはご丁寧にありがとうございます。ミナ様の元気の良い声は活力を与えてくれますね。ふふふ、面影がありますね」
老人はミナに微笑むと、レダに視線を向ける。
「実は一度お会いしているのですが……僅かな時間でしたね。では、改めて、お初にお目にかかります、レダ・ディクソン様。私はウィルソンと申します。みなさまとは良き友人になりたいと思っています。どうか、ウィルとお呼びください」
ウィルソンと名乗った老人が握手を求めレダに手を伸ばした。
拒む理由はない。
レダは握手に応じる。
「あ、あの、レダ様」
レダの背後から、恐る恐るディアンヌが声をかけた。
「ウィルソン様は、その、教皇様ですので……」
「えぇ?」
「もしやと思いましたが、気付いていらっしゃらなかったのですね」
ヴァレリーもそんなことを言い出した。
レダは握手を交わしたまま、恐る恐るウィルソンの顔を見る。
「確かに教皇という立場ではありますが、レダ・ディクソン様は私にとって尊敬するべき方です。どうか立場など気にせず、気さくに接していただければ幸いです」
よく考えれば、王家だけが知る門の存在を知る者は僅かだ。
そして、こうして門が鎮座する部屋で出迎えができる者など限られていた。
平民であり、底辺冒険者であったレダが王都で暮らしていたからといって教皇の顔を知っているわけがない。
「…………さ、さすがにそれはどうかと」
青い顔をしたレダは、なんとかそんな言葉を絞り出した。




