11「門の秘密」①
「門の中が見えない?」
思わずレダが呟いてしまう。
どれだけ目を凝らしても、門の向こう側が見えない。
「この門は転移の門なのさ」
「……転移、ですか?」
「王族専用の道と言ってはいるが、実際は転移の門さ」
――転移。
それは失われた古の秘術だ。
「まさかこんな身近に転移の遺跡があるなんて」
「王家の秘密のひとつさ。ここを潜れば、王都の教会の地下に繋がっている」
「……そんなことが。もしかして」
レダが、恐る恐るディアンヌを見た。
教会に所属する聖女である彼女が、教会の地下にある王族専用の転移の門を知らないとは思えなかったのだ。
「構わないよ、聖女殿。もうディクソン一家は王家の身内さ。話をしても問題ない」
ウェルハルトの言葉で、ディアンヌが転移の門を知っていることは理解できた。
「――はい。レダ様、皆様、黙っていて申し訳ありません。わたくしは、こちらの門を潜ってアムルスにやってまいりました」
「謝罪なんて。秘密を言えないことはウェルハルト殿下からお聞きしていますから」
「それでも……この地に来てから黙っていることが心苦しかったのです」
気持ちはわかる。
みんなが驚いている中、ひとりだけ全てを知っていたディアンヌは、知らないふりをしていたのだからさぞ居心地が悪かっただろう。
そんなディアンヌにミナが駆け寄り、手を繋ぐ。
「ミナ?」
「この門を潜るのはちょっと怖いなって思ったけど、お母さんが一緒なら平気だね!」
「――ええ、そうね。ありがとう、ミナ」
優しい笑顔を浮かべたミナに、ディアンヌも微笑んだ。
これで気まずい空気は消えた。
レダは安堵する。
「ていうか、パパぁ。あたし、度胸はある方なんだけどぉ、さすがにこの門を潜るのは怖いかもぉ」
「……そう、だよね。怖いよね」
情けない話だが、未知なる体験を前にレダは尻込みしていた。
ウェルハルトやディアンヌが問題なく門を潜って行き来しているのだから、危険はないのだろう。
だが、怖いものは怖い。
「あ、あの、殿下。この門はどういう仕組みで転移を可能にしているのでしょうか? 王家の秘密であるのなら、お答えしなくてもいいのですが、気になったといいますか、知っておけるなら知っておきたいなと思いまして」
恐る恐るレダが尋ねる。
ルナたちも、ウェルハルトの返事を沈黙して待った。
「――さあ?」
「――さあ!?」
予想もしていなかった返答に、レダたちは驚いた。




