4「ユーヴィンで休憩」②
「すまない。脅かすつもりはまったくなかったのだ……難しいな、私はつい言いたいことを無遠慮に言ってしまうのだよ」
「いえ、お気になさらずに。ですが、王都で護衛が必要というのは……俺も王都で生活をしていましたが、治安はその、良い方だと思いますが」
もちろん、王都にもスラム街はある。
むしろ、貴族のような華々しい生活をしている人間が多いからこそ、貧富の差は大きいと言える。
「私には敵が多いからね。私と一緒に王都入りすれば――無論、極力秘密裏に王都に戻るが、絶対に誰にも知られないなんてことはありえないからね。私を快く思わない人間から敵と思われてしまう可能性がある。テックスやエルザだったかな、かなりの使い手がいることは知っているつもりだが、それでももう少し数を増やした方がいい」
ウェルハルト付きの騎士も冒険者も、あくまでも王子のための存在だ。
無論、レダたちもウェルハルトの客人であるため、護衛対象であることは間違いないのだが、優先順位はウェルハルトの方が上だ。
「脅かすつもりはないんだ。ただ、念には念を入れてほしい。経費は私が持つので、心当たりがあるのなら雇ってくれ」
「……お心遣いに感謝します」
ここで遠慮するのも失礼なので、素直にレダは感謝を述べる。
ウェルハルトはほっとした顔をする。
彼も彼で本気で心配してくれているのだろう。
レダの家族には、ウェルハルトの姉でありウィンザード王国王女であるアストリットと、辺境伯の妹ヴァレリー、そして聖女のディアンヌがいる。
次期国王に次ぐ、重要人物たちだ。
「その顔だとあまりわかっていないようなので言っておくが、レダ兄上も重要人物だからな。きちんと自覚しておくように」
「はい?」
「治癒士たちが治せなかった姉上やヴァレリーを治し、災厄の獣を倒した。英雄だと私は思っている」
「ははは、そんな」
笑おうとして、レダは固まった。
ウェルハルトの目が真剣だったからだ。
「現状のアムルスからレダ兄上を引き抜くことはできぬが、いつか弟子が増え、レダ兄上が身軽になったらぜひ私に仕えてほしい」
「もったいないお言葉です」
「すげえな、レダ。大出世だな」
「テックス、そなたもいつでも大歓迎だぞ」
レダを茶化したテックスが余計なことを言ったと、困った顔をした。
「俺はもう歳ですからね。アムルスでのんびり冒険者をした後に隠居しますよ」
「よく言う。隠居を視野に入れた冒険者が災厄の獣に挑んでたまるか」
「もう後悔がないほど生きたのでできたことですって」
「ははは、よく言う! まあ、気変わりしたらいつでも訪ねてきてくれ。さあ、女性陣がお待ちだ。荷物持ちをしに行こうではないか!」
ウェルハルトはアストリットと買い物ができることにウキウキしながらレダとテックスを引っ張っていった。




