1「出発の朝」①
今日。レダ・ディクソンと家族たちは、ウインザード王国第一王子ウェルハルト・ウインザードと彼を護衛する騎士と冒険者たちと共にアムルスから王都へ旅立つ。
(あっという間だったなぁ)
レダが心の中でしみじみ呟く。
ウェルハルトが王都に帰るのは、レダの王都行きが決まった二日後だった。
もともと冒険者で身軽なレダは、「その間に診療所で仕事しないと」といつも通りに生活を送りながら、夜はウェルハルトたちと酒盛りを楽しむくらいだったが、女性陣は違った。
――たった二日しか準備ができないの!?
そう慌て始めたのだ。
驚き「なぜ」と尋ねようとしたレダを止めたのは、ウェルハルト、ティーダ、テックスだった。
「――女性の身支度は長いが文句を言おうものなら大変なことになる。静かに見守るんだ。なにか言われたら人形にように、はい、と従うんだ。いいね?」
つまり余計なことを言うな、ということだった。
レダも女性陣を怒らせたいとは思わなかったので、助言通りに従った。
結果、今日、にこにことした笑顔で女性陣は出発を迎えることができた。
「よう、レダ。まだ暑いがいい天気でなによりだ」
「テックスさん」
「おう。俺はアムルスに残るつもりだったんだが、殿下が連れてきた冒険者の大半が知り合いでな。せっかくだから一緒に行こうと言われて、ご一緒させていただくぜ」
「テックスさんが一緒なら心強いです」
「ははは、万が一なんてねえって。災厄の獣を倒したレダとナオミ、エンジーたちもいるし、殿下の近衛もいるんだ。冒険者も一流だ。また災厄の獣が現れない限り、無事に王都にいけるってもんよ」
「例えでそんなこと言わないでください。二度と戦いたくありませんって」
「違いねえ」
かかか、と豪快に笑うテックスはアムルスで冒険者たちのまとめ役であるが、今回は王都行きについてきてくれることになった。
心強い友人が同行してくれることは、レダとしてはありがたい。
「ま、俺の娘が王都にいるからたまには顔を見ようと思ってな」
「そういえば、以前おっしゃっていましたね」
「おうよ。ま、向こうさんはとっくに自立しているから会いたくはねえかもしれねえがな。しっかし、ティーダ様も頑張ったな。まさか馬車を十台も用意するとは思わなかったぜ」
「……ありがたいというか申し訳ないというか」
ティーダが用意してくれた馬車は一般的な馬車ではなく、貴族が乗るための大きく豪華な馬車だ。長旅にも適応している、とにかく金がかかった高性能な馬車である。
レダの記憶では、アムルスには三台しかなかったはずだが、どこからか用立てたようだ。
「俺は歩けますが、女性陣が大変でしょうからね」
「その前に王女殿下、領主の妹殿、そして聖女殿を歩かせるわけにはいかないわなぁ」
「ですよね」
「他にもちらほら貴族様も混ざっているしな」
「……はい」
アストリットは王女であり、ヴァレリーは貴族、同行者であるディアンヌは聖女だ。
いくら旅とはいえそれなりの形式は必要だった。
またレダの弟子も今回同行者に含まれているが、ルルウッド、シュシュリー、ポールも貴族だ。彼らの強い要望で貴族として扱わないと約束しているが、彼らの家がある王都に向かうにあたりさすがに貴族として扱わないわけにはいかなかった。
「個人的には女性陣の荷物で馬車が一台埋まると思っていませんでした」
「ははは、おそらく加減していた方だぜ」
「え?」
「貴族の奥方になると避暑地に行くのに、荷物だけで馬車二台だ」
「……何をそんなにもっていくんですか?」
「さあなぁ。貴族様のことは俺にはわからねえや」
テックスが笑い、レダも笑う。
そして、ふたりの視線が近くで吐きそうな顔をしているエンジーに向かう。
「で、おまえさんはなんで馬車に乗る前から吐きそうな顔をしているんだ?」
テックスが尋ねると、エンジーは顔をふにゃりとさせて泣きそうになった。
まだ出発していませんが、王都編です!
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