123「ティーダ企む」②
「はははははははっ! まさかっ! このティーダ・アムルス・ローデンヴァルトが敬愛するウェルハルト殿下に厄介ごとを押し付けるなど! ……………ちっ」
「今、舌打ちしなかったかな!?」
「してませんとも! 舌打ちなど、生まれてから一度もしたことがありません!」
「あ、怪しすぎる! レダ! ティーダ殿は何をお考えかな!?」
あからさまに怪しいティーダに、ウェルハルトは顔を引き攣らせてレダに問いかける。
(――ここで振られても困るんだけど……)
ティーダは誤魔化せ、とアイコンタクトをしているし、ウェルハルトは不安そうな顔をしている。
ここで嘘をつける度胸はレダにはなかった。
「…………えっと、ウェルハルト殿下にも悪い話ではないと思いますよ……たぶん」
「たぶん!? そのたぶんが怖いと思うのは私だけだろうか!?」
「殿下、宮中で腹黒狸どもとの付き合いが大変でしょうが、忠臣である我々を疑われては悲しく思います」
「すまん……私は少々疑心暗鬼になっていたようだ」
「いえ、殿下のお立場ならば、仕方がないことです」
しんみりした雰囲気になってしまったが、ティーダはウェルハルトの死角からレダに親指を立てている。
「して、献上したいものとは?」
「はい。王家にぜひ献上したく思いまして。ええ、それほどたいそうなものではないのですが、殿下が陛下への土産として持ち帰るにちょうどいいかと思います。なあ、レダ?」
「…………そう、ですね」
(だから、こっちに振らないでくれませんか!?)
レダとしては、ウェルハルトを騙したいとはまったく思っていないのだが、王子である彼でなければ災厄の獣が残した大きな魔石をどうにかできる者はいないとも思っている。
王家に献上するにも、ティーダが考えているようにウェルハルトにまず預けてしまった方が早いのだろう。
レダは心の中で手を合わせて謝罪した。
(ごめんなさい、殿下。何かあったらいつでもお助けしますので、今回だけは……お願いします)
「さあさあ、殿下! 我が屋敷にどうぞ! そちらで、例のブツをお見せしましょう」
「……なぜ急に土産を例のブツなどと言うのだ? わざとか? わざと私に不安を覚えさせようとしているのか!?」
「そのようなことありません。ささっ、どうぞどうぞ! ――レダ、君も一緒に」
「…………はい」
レダがいなければ、魔石を出すことができないため、ウェルハルトの背中を押して屋敷に向かうティーダの後をレダは肩を落として追いかけた。
――しばらくして、ローデンヴァルト辺境伯家からウェルハルトの悲鳴が轟いた。




