122「ティーダ企む」①
「しかし、改めて訪れて思うのは、アムルスは良い街だ。災厄の獣という大きな脅威が迫りつつあったというにも関わらず、住民たちは残った。これは素晴らしいことだと思う」
ウェルハルト殿下と共にアムルスに来てくれた騎士たちと冒険者たちは、アムルスの危機に駆けつけてくれた者たちとして住民総出で大歓迎された。
彼らは、災厄の獣との戦いに間に合わず、それどころか助けられる羽目になったので歓迎を遠慮していたのだが、災厄の獣を退けてお祭り騒ぎになっているアムルスのノリに巻き込まれて、今では楽しんでいる。
「ありがとうございます。そう言っていただけますと、私も住民たちも嬉しく思います」
「田舎――という言い方をするのは申し訳ないが、アムルスの空気は澄んでいるし、人間関係がギスギスしていないので気楽だ。王都、いや、王宮で生活していると窮屈でね。王族と生まれたからには責務を果たすことになんら躊躇いはないが、ときどき何もかも投げ出して遠くへ行きたくなってしまうよ。ははは」
冗談のように言うウェルハルトであるが、言葉の最後あたりは本音が混ざっているだろうとレダもティーダも思う。
ティーダは、貴族として王都でのギスギスした雰囲気というのはよく知っている。むしろ、貴族同士だからこそ、もっと酷い関係である。
同じ派閥でも上下を決めずにはいられず、追い落とそうとする人間は多い。これが派閥が違うだけで、家族でも殺されたのかと思うほど憎み合う貴族たちもいる。
ティーダが王都を離れ、アムルス周辺を開拓するのに力を入れているのは、単純にこの地の発展を願っていることももちろんあるが、王都に嫌気がさしてしまったからという理由もある。
レダは貴族ではないが、冒険者として王都の大変さを身をもって知っている。
良くも悪くも実力主義であり、成功者以外には少し生き辛い場所であった。
冒険者すべてが悪い人間ではなく、底辺冒険者だったレダとも付き合いがある者はいた。
ギルドの職員だって、冷たい者はいたが、親切な者もたくさんいた。
だが、やはり、アムルスの方が居心地はいい。
「お気持ちはわかります。私も王都での貴族たちが嫌で辺境に閉じこもっている身ですからね」
「ローデンヴァルト辺境伯ならわかってくれると思っていた。最近は、貴族の擦り寄りが鬱陶しくてね。ほら、私は王族に珍しく婚約者もおらず、未婚だろう? 縁談がしつこくてしつこくて……最近、枕に抜け毛が増えた気がする」
「……それは、おいたわしく」
「まったく。姉上のように美しく気高い女性ならいざ知らず、王族になりたい、権力がほしい、そのような我儘な者は妻に迎えるつもりはないのさ」
「前半はさておき、後半は臣下としても同意見です」
「とはいえ、いずれは決断しなければな。その前に、帰ったら父から鉄拳制裁が待っているであろうが……」
「そんな殿下に良いお知らせがあります」
「なんだ、急に?」
首を傾げたウェルハルトに、ティーダがにたり、と笑った。
「殿下にお土産といいますか、ぜひ献上したいものがあるのです。そちらを持ち帰ってくだされば、陛下も殿下に鉄拳制裁をしている余裕などなくなるでしょう」
にたぁ、と悪巧みをするような顔をしたティーダに、ウェルハルトが困った顔をする。
「なにやら厄介ごとを押し付けられるような気がするのは気のせいだろうか?」




