118「王子の来訪?」①
「やあ、レダ。昨晩よりすっきりした……顔をしていないのはなぜかな?」
改めてアムルス領主であるティーダ・アムルス・ローデンヴァルトの執務室を訪れたレダは、出迎えてもらったティーダに首を傾げられた。
「父親としてそろそろ現実に向き合わなければいけない時が来たのかと思いまして……災厄の獣よりも恐ろしいと震えが止まらないんです」
「ああ……まあ、なんだ、娘を持つ父親ならば通る道だよ」
レダの遠回しな言葉に察したティーダが、苦笑する。
彼も娘を持つ身だ。
まだ幼いが、いずれレダのように向き合い日が来るだろう。
「私が見る限り、ミナにはもう少し時間が必要だろう。成人まで先ではあるし、彼女も今までの境遇が悪かったこともあって今が一番成長している。良いことも悪いこともたくさん経験する今だからこそ、見守ってあげるのが大人と役目だと私は思うよ」
「そうですね。誤解のないように言っておくと、反対しているわけじゃないんです。ただ、まだ父親になって数ヶ月なのに、寂しいなって」
「それはわかる。よぉく、わかる」
ティーダは深く深く頷いてくれた。
彼も彼でいずれくる娘の変化に覚悟しているのだろう。
「ごほん。この話は後日、酒でも飲みながら話をするとしよう」
「あはは、そうしましょう」
「さて、昨日もいろいろ話をしたが、とりあえずエンジー以外はみんな元気に目覚めたようだ。ただ疲労が大きいので、しばし休息してもらいたい。診療所はネクセンとドニー殿に任せきりになってしまうのは申し訳ないが、教会から聖女ディアンヌ様とモリアン殿が手伝いにきてくださっているのでしばらくは大丈夫だ」
「モリアンさんも、ですか?」
「ああ。モリアン殿は、まあ、そこまで悪い男ではない。少々野心が強いが、根は善人だ。問題を起こして飛ばされてきたシスターレイニーに煽られてしまったせいでレダに突っかかったのだろう」
「……モリアンさんは、冒険者ギルドで真剣に治療していてくれていたのを見ています」
「良くも悪くも素直なのだよ。裏表ないと言えば聞こえがいいかな」
聖女ディアンヌは娘ミナがいることもあって望んでアムルスに来たが、モリアンとレイニーは違った。
王都の教会に戻りたいと思うことは仕方がないことだろう。
ただ、レダとしては、その理由に利用されたくはない。
「焦っていたのだろうね。野心があるなら、レダたちと親しくなって協力関係を築けばよかったのだ。お互いに好感を抱けば、相談もできる。親しくなれば、野心云々ではなく、友として踏み込んだ関係になれる。まあ、モリアン殿も悪い人間ではないので、歩み寄ってくるのであれば相手をしてやってくれ」
「はい」
「さてと、魔石に関してだが、とりあえず王都にいる父に手紙を送った。我々の一存で王家に献上するというのも問題になるかもしれないのでな。父は顔が広いので、根回しもしてくれるよう頼んだ。王族と会うにもそれなりの手順が必要だ。向こうから呼ばれるか、何かの拍子に王族がアムルスにきてくれればいいのだが、災厄の獣が倒された情報も伝わっていないだろうから、まずありえないだろうね」
「ですね。陛下たちとはお会いしたことはありますが、さすがに今のアムルスには来られないでしょう」
倒されたとはいえ、災厄の獣が現れたアムルスに王族が来るとは思えない。
仮に王族が行くと決めても周囲が止めるだろう。
「とりあえず、返事待ちだ。それまでゆっくり身体を休めてくれ」
「はい」
レダが返事をした時、執務室の扉がノックされる。
「入れ」
「失礼いたします。その、急遽お知らせしたいことがございまして」
部屋の中に入ってきた執事は言い辛そうに言葉を選び、口を開いた。
「ウェルハルト殿下がいらっしゃいました」
「――は?」




