117「弟の到着」②
「ウェルハルト……あなた立場を考えてって、その前に立ちなさい。みんなが見ているわよ」
「……申し訳ありません、立ちたいのはやまやまですが……お尻が二つに割れてしまい」
「お尻はもともと割れているでしょうにって、本当に割れちゃったの!? 血が滲んでいるじゃない!」
「長時間の乗馬のせいでお尻が……」
ウェルハルトの鎧をアストリットが外していくと、白いズボンが赤く染まっていた。
「ウェルハルト……お尻がこんなになるまで無理をして」
「姉上を案じていました。それに、レダ義兄上だけを戦わせるなど、弟として失格です。しかし、まさか、すでに最悪の獣が倒されているとは、喜ばしいのはもちろんなのですが、なんでしょうか、このなんとも言えない気持ちは」
「ありがとう、ウェルハルト。あなたのような弟を持って私は幸せよ」
「――姉上っ」
アストリットの感謝の言葉に、ウェルハルトが起きがある。
が、すぐに尻に激痛を覚えて顔を引き攣らされる。
「とりあえず肩を貸すわ。レダはティーダ様のところにいるから、遠いわね。診療所に行きましょう」
「あ、姉上。お召し物が汚れてしまいます。私は、その、汚いので」
「気にすることなんてないわ。私のために、アムルスのために王都から全力で来てくれたあなたに少しでも感謝を示させて」
「……姉上」
身体に力が入らないウェルハルトの身体は重い。
しかし、アストリットは力を振り絞ってウェルハルトを支えた。
アストリットとウェルハルトの関係はお世辞にもいいものではなかった。
顔に酷い怪我をしてしまったアストリットは外界と断絶し、閉じこもっていた。
否、閉じこもるしかなかった。
傷は痛み、なぜ自分がこのような目に遭わなければならないだと世界を恨み続けた。
周囲に当たり散らして、本当に少し前までこの世界に絶望していたのだ。
ウェルハルトは何度も見舞ってくれていた。
アストリットが暴れるので言葉を交わしたことはなかったが、弟は姉をずっと案じてくれていたのだ。
レダのおかげで、こうして姉弟の中は王家には珍しい仲の良い姉と妹になれた。
次期国王の第一王子が、姉のために王都から「最悪の獣」と戦おうとするなど、本来はあり得ない。
アストリットは次期国王として自覚がないことを叱るべきと思ったが、弟が純粋に慕ってくれることに喜びを噛み締めていた。
その後、顔見知りの冒険者の手を借りてウェルハルトと愛馬を診療所に運ぶと、治療をしてもらった。
ウェルハルトは体力はさておき、怪我は治り「尻が生まれ変わったようです!」と喜んでいた。
まともな食事をしていなかったと聞いていたので、胃に優しいスープと粥を出すと、弟は感涙しながら食べ続けた。
近所の方々の手を借りて、遅れてくる騎士と冒険者たちの食事を作ってもらう。
幸いなことに、災厄の獣を倒した宴は続いていたので、皆快く引き受けてくれた。
酔いが覚めているアムルスの冒険者は、騎士と冒険者を探しに出てくれた。
本当に感謝しかない。
アムルスは本当に暖かい街だ。
「さて、ウェルハルトが来たことをレダに伝えないとね!」
〜〜あとがき〜〜
ティーダ氏「なんて良いタイミングで王子様が来てくださった! 魔石を押し付けるぞぉおおおおおおおおお!」
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