115「一夜明けて」①
災厄の獣と死闘を繰り広げた翌日。
レダ・ディクソンは昼前に、目を覚ました。
「……あら、パパぁ。ようやくお目覚めぇ?」
「……おはよう、ルナ」
「おはよ。疲れているのなら、もっと寝ていたほうがいいわよぉ」
「いや、起きるよ。寝過ぎて腰が痛いから、ははは」
目覚めたレダが目にしたのは、ベッドの脇で刺繍をしている妻ルナの姿だった。
「みんなはどうしているかな?」
「ナオミはもうピンピンしているわよぉ。剣をかついで森に見回りに行こうとしたからテックスおじさんが止めたわぁ。とりあえず今日は安静にするようにって、言い聞かせるのが大変だったわぁ」
「……ナオミらしいね。元気そうでよかったよ」
災厄の獣といちばん戦ったナオミが元気なようで安心する。
「ルルウッド、シュシュリー、ポール、アマンダも元気よぉ。魔力的な疲労はあるようだけど、特に問題はないみたい。でも、数日は魔術を使わずにゆっくりしていたほうがいいみたい」
「あれ? エンジーは?」
「エンジーは、まだ寝てるわぁ。ドニーおじいちゃんが見てくれたけどぉ、体力、気力、魔力全てを使い果たしたから回復待ちだそうよぉ」
「えっと、それって」
「疲れ過ぎて起きられないってこと!」
「大きな問題はないんだよね?」
「むしろ、今回の件で魔力的成長をしたんじゃないかって。あたしにはよくわからないけどぉ、後天的に魔力が成長するのって稀らしいわねぇ」
成人しているエンジーの魔力が成長するのは確かに稀だ。
大人になってから魔力量や質が成長することはまずないと言われているが、たまにいるのだ。
多くの場合、後天的な成長をした者は魔術師として成功すると言われている。
エンジーは大きく変わった。
おどおどしていた青年が、災厄の獣を相手に戦えるほど成長した。
多くの命を救ったのだ。
弟のように思っていたエンジーの成長に、レダは自分のことのように嬉しくなった。
「エンジーにはミナがつきっきりよ」
「――うん?」
「目を覚ましたときに誰もいないんじゃ寂しいからってそばから離れないのよぉ」
不思議だ。
災厄の獣という大きな敵を倒したのに、心が晴れない。
むしろ、レダの心は曇ってきた気がする。
「あ、あの、ルナさん」
「なぁに?」
「事が事だったので考えないようにしていたんですが……ミナってまさか」
「んふふふぅ」
「なにその含み笑いは!?」
もしかしたら、可愛い愛娘が嫁に行ってしまう日が来たのかもしれない。
レダは、魂と身体が震えたのを実感した。




