114「ウェルハルト走る」
ウェルハルト・ウインザードは、次期国王に選ばれた第一王子である。
プラチナブランドの髪を清潔に整え、柔和な笑みを浮かべた姿は王子様の理想像である。
――だが、そんなウェルハルトは完全武装で目を血走らせていた。
「アムルスまでもう少しだぁあああああああああああああああああ! 恐れを知らぬ騎士よ! 冒険者よ! 災厄の獣をぶっ殺す準備はできているかぁああああああああああ!?」
白馬に乗ったウェルハルトは喉の奥から大絶叫を響かせる。
先頭を走るウェルハルトに続く、騎士と冒険者たち総勢二百名が大声で応えた。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
馬を走らせ、王都から辺境のアムルスまで最短の距離で移動していた。
途中、王家の人間だけが知っている特別な道まで使ってしまう始末だ。
しかし、姉を心から愛するウェルハルトにとって、些細な問題だった。
「アストリット姉上! レダ義兄上! このウェルハルト・ウインザード! お二人のためならば、災厄の獣だろうとなんだろうとぶっ殺しましょうぉおおおおおおおおおおおお!」
ウェルハルトは、次期国王として多忙な男だった。
最近では、回復ギルドの革命にも手を貸して、アマンダをギルド長となる後ろ盾にもなったりしていた。
国のために、民のために、というのは建前であり愛する姉の幸せのため、姉の愛するレダのために全力で動いただけの話だ。
そんなウェルハルトが王都にいる間、なんと「災厄の獣」が現れ、アムルスを襲う可能性があるという。
信頼する騎士と、冒険者を率いて、父である国王が止めるのを無視して王都を飛び出した。
姉のために、姉の家族のために、この命を失っても構わない。
「アストリット姉上ぇええええええええええええええええええ! レダ義兄上ぇえええええええええええええええええ! ヴァレリー、ルナ、ミナ、ナオミ殿ぉおおおおおおおおおおおおおお! 姉上の家族であるあなたたちを私が命を賭して守るぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
普段は爽やかな王子であるウェルハルトは、別人のように声を響かせて不眠不休で馬を走らせ続ける。
――止まらないため、災厄の獣が倒された情報がウェルハルトにはまだ伝わっていない。
「姉上ぇええええええええええええええええええええええええええええ!」




