112「ティーダの悩み」①
ティーダ・アムルス・ローデンヴァルトは、自室でひとり大きく息を吐き出した。
「これで問題が複数片付いてくれるか」
災厄の獣と魔石に関しての話を一応は終えると、レダたちにはそれぞれ部屋に戻ってもらいゆっくり休むよう伝えた。
「災厄の獣の討伐に、国宝級を超える魔石か……正直、幼い頃読んでもらった英雄譚のようだ」
ティーダは苦笑する。
人の良い黒髪の治癒士と出会ってからまだ一年と経っていない。
レダ・ディクソンはティーダ・アムルス・ローデンヴァルトにとってかけがえのない友であり、宝であった。
彼は無自覚であるが、アムルスを救ってくれた。
治癒士という、金の亡者たちから多くの命を救ってくれた。
それだけではなく、治癒士たちのありかたでさえ変えてくれたのだ。
長い時間、凝り固まった考えをたった数ヶ月で変えてしまったことは驚きを通り越して呆れるしかない。
「アムルスは発展している。レダを中心に治癒士たちも集まっている。最近では、ルルウッドたち以外でもレダに師事したい者が多いと聞く。レダは困った顔をするんだろうがな」
容易に想像できてしまい、笑みがこぼれてしまう。
「治癒士の学校をアムルスに創立しようという声もあるのだが、さすがにそれはどうかな。個人的にはアムルスの発展は望ましいが、レダの負担が大きくなってしまうのは望まない。何よりも、レダと縁を作ろうとする面倒な貴族たちが一枚噛もうとしているのが、実に厄介だ」
現在、レダの噂は尾鰭がついて彼に治せない怪我はないというよくわからないものになっていた。
実際、部位欠損を治せてしまうのであながち間違いではない気がするが、面倒なのは病だ。
治癒士は万能ではない。
怪我は治せても病までは治せない。
しかし、勘違いしている者は、レダに不治の病を治してほしいとティーダを介して連絡が来る。
中には、生まれつき目が見えない、歩けない者をなんとかしてほしいとも。
すべて断るしかないのだが、そのせいでティーダがレダを囲っていると認識されてしまい、恨みを買ってしまった。
もちろん、レダの防波堤になることができるのであれば喜んで恨まれよう。
――ティーダは王家の支援を受けている。そこらの貴族など怖くはない。
「一番、頭を悩ませていたことも無事解決しそうだ。本当によかった」
ティーダは、国王陛下からひとつの相談を受けていた。
その相談理由とは、
――レダ・ディクソンに爵位を与えたい、ということ。
つまり、レダを貴族に、という話が出ているのだ。




