107「目覚め」②
「そんなエンジーのそばにはミナちゃんがつきっきりですわよ」
「……………はい?」
「エルフのケイトと良い関係になるかなと思っていましたけど、ヒルデ曰く、ケイトの感情は恋心まで行っていないのではないかと。初めてできた人間の、異性の友人が大切という気持ちは間違いないようですが、恋愛というにはまだ少し時間がかかるようですわね。ただ、エルフの少しと人間の少しでは時間が違いますので……どうなることか少々わくわ……こほん、心配ですわ」
聞き返したレダに、知らなかったミナの情報が流れ込んでくる。
これはよろしくない。
災厄の獣を倒したというのに、レダにとってもっと大きな敵が現れそうな予感がした。
「――あー、ごほん。失礼いたしました。病み上がりのレダ様に聞かせるお話ではなかったですわね」
「そ、そうだね。でも、後日ちゃんと聞かせてほしいな」
ヴァレリーはちょっと気まずい顔をしていた。
おそらく、つい言葉を漏らしてしまったのだろう。
笑って誤魔化そうとしてできていない。
だが、レダも今は向き合う覚悟ができていない。
「とりあえず、俺もティーダ様にご挨拶とご報告をしないと」
「起き上がれますか?」
ヴァレリーの手を借りてベッドから起き上がる。
なんとか起き上がってしまうと、意外と動けることに安心する。
「お兄様も、レダ様に無理を強いるつもりはございません。まずはお食事をとってからでも遅くないでしょう」
「でも」
「たまにはご自分を優先してくださいませ。わたくしの方からお兄様にレダ様が無事にお目覚めになったとご報告していただきますので、しばしお待ちを。お食事もすぐに持ってきますので」
「うん。じゃあ、お願いするよ」
「――はい!」
レダはベッドに腰をかけるような体制となると、ヴァレリーが小走りで部屋を出ていく。
「あ、俺……パンツ一枚だ」
服は血と泥に汚れていた自覚はある。
寝かせるために脱がせたのだろう。
部屋の中を見渡すも、着替えはない。
「……食事の前の着替えが欲しいなぁ」
領主の屋敷でパンツ一枚で過ごせるほどレダに胆力はない。
少しして食事をトレーに乗せて運んできたヴァレリーに、着替えをお願いすると、彼女は忘れていた、とすぐに用意してくれた。
スラックスとシャツだけを身につけたレダは、ようやく落ち着いて食事ができた。
空腹でもあったが、喉も渇いていた。
まず水を飲み、水分が身体に染み渡るのを確認すると、野菜を煮込んだ塩味のスープをありがたく頂戴する。
優しい味付けには覚えがあった。
「これって」
「気づいてくださいましたか。わたくしと、アストリット様が作ったものですわ。おかわりもありますので、たくさん食べてくださいませ」
「――とっても美味しいよ。ありがとう、いただくね」
暖かい食事を食べて、レダの身体からまだ張り詰めていた力が抜けた気がした。




