104「帰還」③
「――パパ!? ねえ、ちょっとパパ!?」
ルナが大きな声を出してレダを揺らすが、反応はない。
レダの口元に耳を近づけると「すう、すぅ」と寝息を立てている。
「寝て、るの?」
「限界だったんだろうさ。レダだけじゃねえ、エンジーもナオミの嬢ちゃんも、駆けつけてくれたみんなも、そして俺もだ」
「ちょっとテックスおじさんまで倒れないでよ!?」
「当たり前よ。冒険者の意地でも倒れねえさ。俺はレダたちを連れて帰るのが役目だからな。もう少し頑張るさ」
そういうテックスももう限界が近そうだった。
だが、ベテラン冒険者としての意地を振り絞って、アムルスに着くまで意識を手放すつもりはなかった。
「ところで、ルナの嬢ちゃん。どうして俺たちがここにいるってわかったんだ?」
「街は警戒態勢だもの。見張りはいるわぁ。ヒルデの集落からアムルスに来ているエルフたちも全面協力してくれるし、ママたちもね。見張のエルフの目がよほど良いみたいで、パパたちがこっちに向かっているって。で、ミナが我慢できずに飛び出しちゃったのよ」
「ははは、ミナの嬢ちゃんも行動力があるからなぁ」
「笑い事じゃないわよ。こっちは慌てて起きかけてきたんだから」
ルナが妹の行動力に苦笑していると、背後で誰かが倒れる音がした。
半分引きずられていたナオミが、ついに限界を超えて倒れてしまったのだ。
「ナオミ様!」
「ナオミ様!? 大丈夫ですか!?」
シュシュリーとアメリアがナオミに繰り返し声をかけるが、ぴくりとも反応せず、レダとエンジーと同じように寝息を立て始めた。
「……ナオミまで。災厄の獣ってどんなのだったのぉ!?」
「ルナの嬢ちゃん。知らないが一番だぜ」
「そ、そこまでなので。と、とりあえず、アムルスまで頑張れるぅ?」
「頑張るさ――いや、その必要はないかもしれないな」
「え?」
ルナが振り返ると、アムルスからヒルデが乗った荷台を引いたエルフと冒険者が走ってくる。
「レダたちはあそこだ! 急げ!」
「へい!」
「承知しました!」
ヒルデがレダたちを見つけ、指を指すと、冒険者とエルフが返事をして足を早める。
「ちょ、待って、揺れる。これは酔う!」
ヒルデが乗る荷台に並走し、領主ティーダが乗る荷台が走る。
二台の荷台は、勢いに任せてあっという間にこちらにやってきた。
「迎えにきたぞ、レダ!」
「レダだけではなく、みんなを迎えにきた。馬車でなくて申し訳ないが、乗ってくれ」
ヒルデが荷台から飛び降りた。
武装したエルフと冒険者が周囲を警戒するようにレダたちを守る。
「テックス……もう終わった、でいいんだよね?」
「もちろんです。勇者ナオミを筆頭に、レダたち治癒士たちが頑張ってくれました。特にエンジーの貢献は大きいです。あとで褒めてやってください」
「……そうか。みんな、ご苦労様。ルルウッドたちも、ユーヴィンからきたばかりにも関わらず戦場に送り込んだとことを謝罪する。そして、よく戻ってくれたと感謝する!」
ティーダが頭を下げた。
しばらくして顔を上げたティーダは、ミナに心配されているエンジーを見て微笑んだ。
「エンジーもユーヴィンで会ったときには心配の方が大きかったが、本当に立派になった。彼のような治癒士がアムルスにきてくれたことを、心から感謝する。いや、ちゃんと目覚めてから言おう」
ティーダは、声を張り上げる。
「――さあ、アムルスに英雄たちを連れて帰るぞ!」




