90「エンジーの活躍」①
水の刃が災厄の獣を襲う。
まだ余力のあるレダは、獣に殺到する刃を軌道を少しずらしナオミを避けた。
金色の力と、蒼い力が獣を傷つける。
身体中を刃で切り裂かれた獣から血飛沫が舞い、ナオミの聖剣の一撃は大きく背中を抉った。
――が、それだけだった。
「……なるほど、再生能力か厄介な」
「無限に再生するわけではないのだ! 続けるのだ!」
悲鳴さえ上げない獣に気味悪さを覚えながら、レダは攻撃を続けた。
ナオミの言う通りだ。
再生も無限にできるわけではない。
ならば、こちらの力が尽きるか、獣の力が尽きるか勝負だ。
(――エンジー?)
まだ攻撃をしていないエンジーにレダは視線を向けた。
彼は、地面に手をつき何か念じている。
手探りの聖属性の力を使い、なにかしようとしているのだ。
ならば、彼に獣が意識を向けないように攻撃を手を休めることはしない。
「――氷よ」
レダが魔力に聖属性の力を注ぎ、氷の槍を三十本作り出した。
刃ではなく、物理と聖属性でダメージを与えようとしたのだ。
――獣の目が、いくつかレダに向く。
「興味はあるようだね。――じゃあ、食らって感想を聞かせてくれ!」
弾丸のように氷の槍が放たれた。
一直線に獣に向かう、氷の槍に獣が初めて警戒を見せる。
――獣が放ったのは、咆哮だった。
ただの咆哮だった。
魔力を乗せた衝撃波でもあった。
「ぐっ、ぬ、あっ」
吹き飛ばされそうになるが、レダは踏ん張って耐えた。
だが、獣に向かった氷の槍がほぼ砕かれてしまった。
舌打ちをしようとして、身体の軽いナオミの身体が吹き飛んだことに気づく。
「ナオミ!」
慌てたレダが走り、彼女の小さな身体を受け止める。
「……レダ、さすがだ。五本も奴に刺さったぞ」
「ここからだよ」
腕の中のナオミが指を刺すと、獣の背中に、腹に、首に氷の槍が深く突き刺さっていた。
獣がこちらを睨んでいる。
レダは、怯えず笑った。
「かかってこい、化け物!」
レダが手招きすると、獣が叫ぶ。
血を撒き散らして、レダに向けて駆け出した。
「レダを守るのだ!」
ナオミは剣を握りしめ、構える。
レダも再び氷の槍を生み出した。
「――お待たせしました!」
その時、エンジーの声が響いた。
次の瞬間、獣を囲むように白い光が円形に放たれる。
――そして、その光の中に、獣は閉じ込められた。




