67「新たな聖属性持ち」③
「――というわけで、エンジーには災厄の獣と戦える聖属性があるらしい」
「…………」
「…………」
説明を終えたレダとナオミに、エンジーは沈黙で返事をした。
まだ脳が理解できていないようだ。
目を白黒させている。
あまり焦って物事を進めてはまずいと思い、急かすようなことはしたくない。
だが、時間がないのも事実だ。
レダとしては、エンジーに戦ってほしいとは思っていない。
彼は治癒士だ。
癒し手である。
傷つけることは向いていない。
仮に、多くの人を餌とする獣が相手でも、優しい彼には難しいだろう。
「……えっと、確認したいのですが」
「うん」
「災厄の獣って子供の頃、絵本で読んで悪夢に必ず出てくるあの災厄の獣ですよね?」
「俺は災厄の獣の絵本は読んだことはないんだけど、多分あっているよ」
「その災厄の獣が実際に存在していると」
「そうだね」
「しかも、絵本の内容はだいぶマイルドで、実際はかなり恐ろしい獣であると」
「残念ながらその通りのようだ」
「そんな災厄の獣は剣や魔術じゃ太刀打ちできず、冒険者さんたちも相手ができない」
「ナオミはそう言っている。試そうとは思っていない」
「そして、唯一災厄の獣に対抗できるのが聖属性の力だと」
「その通りだよ」
「その聖属性を持っているのは勇者ナオミ様とレダ先生と……僕、ですか?」
「残念ながら今はこの三人だけだよ」
エンジーはレダを見て、ナオミを見て、レダを見て、ナオミを見た。
そして、自分を指差す。
レダは、申し訳なさそうに頷いた。
「無理です! 無理無理無理無理無理無理無理無理です! 僕、生まれてから一度だって誰かを殴ったことさえないのに! 伝説の獣とバトルなんて絶対に無理です! 死んじゃいます!」
「つべこべ言うなである! 男の子なら一度は強敵に立ち向かうことに憧れるはずなのだ!」
「憧れはしますけど、相手が災厄の獣なんて無理です! その辺にいるゴブリンでさえ勝てる自信がないのに!」
「さすがにそれは弱すぎなのだ! 治癒が使えるのなら、初歩の攻撃魔術くらい使えるはずなのだ!」
「攻撃魔術って痛そうじゃないですか!」
「攻撃する側は別に痛くもなんともないのだ!」
「痛そうにするモンスターを見るだけで駄目なんです!」
「……さすがにびっくりなのだ!」
エンジーの主張にさすがのナオミも戦いに向いていないと理解したようだ。
助けを求めるように、レダを見た。
「わかっているよ。俺はエンジーに戦ってほしいなんて思っていない」
「え?」
「だけど、聖属性の力を持っていることだけは覚えておいてほしい」
「どういう」
「なにかあったときに、自分の力を知っていると知らないでは違うと思う。選択肢もね。俺は、戦えるかどうかわからないけど、災厄の獣と戦う選択をしたんだ。大丈夫、こっちにはナオミもいるよ。エンジーのことはもちろん、家族のこともちゃんと守ってみせる」
レダの言葉に、エンジーは泣きそうな顔をした。
「……ま、まさか、レダ先生は死ぬつもりですか?」
その問いにレダは答えず、曖昧に笑った。




